日差し暖かな冬日和となった2月23日(木・祝日)、新宿二丁目に爽やかな音色が響いた。
バンドグループ『仏滅#13』&『むこ3井戸端会』を迎えて開催された、コミュニティセンターaktaによる「Living Together『aktaライブショー』」では、心地の良いアコースティックライブにあわせ「HIVをもっている人も、そうじゃない人も、まだ分からない人も。わたしたちはすでに、いっしょに生きている。We’re Already Living Together.」というメッセージが届けられた。
今回は、そんな音楽を楽しみながら、HIVのリアリティを共有した当日の様子をご紹介。アットホームで笑顔溢れる雰囲気の中、HIVをより身近に自分ごととして捉えられる有意義な時間となった。
ーー伝える側の気持ち。「むこ3井戸端会」が届けた、言葉の温度。
MCを務めるマダム ボンジュール・ジャンジの威勢の良い挨拶のあと、最初に演奏を始めたのは『むこ3井戸端会』のみなさん。
むこ3井戸端会は、ライブイベント「向こう三軒両隣」を手掛けるうりさんこと宇野隆介さんとひろしさんが、以前新宿EAGLE TOKYO BLUEで行ったライブのために結成したオリジナルバンド。今回はそのときのメンバーを引き連れて、『aktaライブショー』を盛り上げた。
1曲目は、困難を乗り越えていく過程や成長していくことの難しさが込められた『色彩(by yama)』で、リズミカルで爽快なメロディに乗せた人生の彩りについてを。
2曲目は凛とした歌声で『距離(byヒグチアイ)』。「ほんのちょっとの距離でふたりはすれ違っていいんだよ」の歌い出しが切なく、ネガティブな心情やもどかしさの中にでも、希望が見出せることを聴かせた。
その後、ボーカルの宇野さんはHIV陽性者の手記のリーデイングを披露。選んだのは、「なぜあなたにこの話をするのか/Kさん/男性/20代/HIV陽性者」という、好きな人にHIV陽性を伝える気持ちを綴ったもの。
告白することで嫌われてしまうかもしれないという恐怖の中で、好きだからこそ、後出しじゃんけんをせずに正直で言おうと思った決意の表れが伺え、その最後の一節は、「僕の問題をあなたにも一部背負わせることになるけど、それでも一緒にいてくれたら嬉しいです」と、直接相手に伝える形式で書かれていた。
この手記を選んだ理由について宇野さんは、
「相手に何かを伝えるというのはすごく怖いことで、自分にとって重い悩みほどその恐怖は大きくて。それでいて、言葉には温度があって、受け取った相手にとっては温かかったり、冷たかったりと人それぞれ違くて。でもその温度は必ず相手に伝えないと届かないというもので……。
自分自身も相手になかなか伝えづらいことや、なかなか相手に伝えてもらえなかったりということがよくあります。できれば自分も同じ境遇のときにちゃんと相手に伝えられる、伝えてもらえる、そんな関係性が築ける人間になりたいと思って選びました」とコメント。
それに続き、最後3曲目では、温かいものや冷たいもの、温度が伝わる曲として、『Subtitle(by Official髭男dism)』をセレクト。手記同様、大切な人を想う心と言葉で伝える難しさが表現されたラブソングを歌い上げ、会場を優しいムードに包んで、第一幕が終了した。
ーー伝えられる側の気持ち。「仏滅#13」が届けた、心の声。
休憩を挟んだあとは、出演を承諾したのは良いものの、曲調がネガティブな曲ばかりで困ったというトークに笑いを起こした『仏滅#13』のみなさんによる第二幕。今回は「Living Together」というテーマのもと、ラインナップした楽曲を届けた。
1曲目は、オリジナルソングの『世界』。サビの「殺してくれないか」というキャッチなフレーズが頭に突き刺さりはするも、「全てわかってあげられなくて傷つけているのかもしれないね」や「私が死んだら何か変わるのかな?」などの詩も印象深く、音域が広いボーカル・藤井周さんの心の叫びが強く伝わるものだった。
その後に読んだ手記は「僕のエイズデー/三日月さん/男性/20代/友人から/HIV陰性」という、HIV陽性者の友人から告白を受けたときに感じた気持ちと今になって気づいた思いについてを綴ったもの。
相手はHIV陽性であることを受け止めていて、大切な友人だからこそ伝えた。だけど本人は、聞きたくなかったし、告白されてもうまく返せなかった。ただあの夜をやり直すことができたら、自分は何て言うのか。あのときどんな気持ちで、どんな声を彼は聞きたかったのだろうか、と後悔の日を「僕のエイズデー」として刻んだ。
この手記を選んだ理由について藤井さんは、
「10年前にも手記を読ませていただく機会があったのですが、そのときもこの文章は印象に残っていました。大切なことを大切な人に伝えるってすごく勇気のいることで、伝える側も受け止める側も大変で。それに一回出した言葉って、良いことも悪いことも戻せない。だからこそ、大事なことを言える人ってとても大切な存在なのかなって」と、10年前は正直戸惑いがありながら朗読したけれど、今回はほんの少し地に足がついているような感じで、しっかり向き合えたと語った。また、大切な存在=友達ってなんだろうとも考えるようになったと言う。
2曲目もオリジナルソングを披露。『ミスカラー』は、藤井さん自身がゲイであることを自覚し始めた頃に制作した曲。アップテンポのリズムの中、人との違いをどこか自虐的で切ない歌詞に乗せつつも「生きていたい」と突っぱねて前を向いていく勇ましさが感じられた。
そしてラスト3曲目は、『深夜高速(byフラワーカンパニーズ)』で締めくくった。
矛盾した気持ちを抱える人生の中で、こちらも「生きててよかった」のフレーズが強く胸を打つ一曲。昔と比べて自分の中で“ゲイ”というカテゴライズが生きる上でそれほど重要な問題でなくなってきたことを受け、自身のセクシュアリティについて頑張んなきゃ頑張んなきゃではなく、あまり気負わずに、昨日より今日、今日より明日、一歩ずつ進んで行けたらいいのではないか? というメッセージをこの歌に委ねてくれた。
ーー気軽でも良い。正しい知識を知ることができる場、話せる場が大切な理由。
新宿二丁目に心地よい音楽を届けた『仏滅#13』&『むこ3井戸端会』を迎えてのライブ演奏が終わると、マダム ボンジュール・ジャンジがそれぞれのバンドへの感想と今回のイベントで読まれた手記に対して、受けてによってそれぞれの解釈で吸収すれば良いこと、また実際にHIV陽性になったとして誰かに伝える場合や、伝えられた場合でも自分のやり方で良いと付け加えた。そして、HIVの新常識についても解説し、幕を締めた。
「なかなか日常生活の中でHIVの話をすることは少ないかもしれませんが、でもこうやってみなさんと一緒に思いを馳せる時間ができたことをすごく嬉しく思います。
宇野さんは伝える側、藤井さんは伝えられた側の手記を朗読しましたが、また必ずしも自分がHIV陽性者であることを誰かに伝えなきゃいけないということでもありません。それは自分自身の中での選択や生き方、その人とどういう人間関係を築いていきたいのかというところなのかもしれませんし、時間が経過することで見えてくることもあります」(マダム ボンジュール・ジャンジ)
●HIVは早期発見・治療をすれば日常生活にほぼ支障をきたすことなく生きられる
●U=U(Undetectable=Untransmittable)というメッセージは、効果的な治療を続けていればセックスでHIVは感染しないというエビデンス
●HIVに感染していない人が抗HIV薬を服用し、セックスでのHIV感染を防ぐPrEPという新しい選択肢もある
ーーHIVは治療が進歩し死なない病気になった今でも、そのイメージは変わっていない。HIVという話題は話にくい、伝えづらいという風潮の中で、今後もHIVについての正しい知識と、差別や偏見をなくしていくためにも、「Living Together」というメッセージはまだまだ発信していく必要がありそうだ。
そして、真面目な勉強会も大切だけれど、音楽という入り口を通して、ちょこっとHIVに触れる・考えるきっかけになるイベントもなかなか素敵なものなのではないだろうか。ぜひ次回開催される際には、ひとりでも友だちとでも、気軽に参加してみてほしい。
■Living Together/aktaライブショー
>https://akta.jp
>仏滅#13 Twitter@Butsumetsu13
>向こう三軒両隣 Twitter@muko3live
主催:NPO法人akta
協力:Living Together計画、ぷれいす東京、東京都福祉保健局
撮影/新井雄大
記事制作/newTOKYO