ゲイ7人の青春群像を描いた映画「ボクらのホームパーティー」川野邉修一監督インタビュー。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーのインタビュー

ーー初見を含めた7人のゲイがひとつの部屋に集まったことで繰り広げられる人間模様。
常に羨望と熱い視線を集めるイケメン、やたら面倒見がいい兄貴、キラキラだけど自分に自信がない可愛い系、野良猫のように人を寄せ付けない少年etc…。普段なら関りがないはずのゲイが化学反応を起こして巻き起こす騒動を描いた今作は、ゲイ当事者だけでなく様々な人に観ていただきたい秀作。

大阪アジアン映画祭2022、第30回レインボーリール東京での上映に続き、K’s cinema新宿や大阪などでの上映が決まった映画『ボクらのホームパーティー』の公開を記念して、川野邉修一監督のスペシャルインタビューをお届けします。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーの写真

ーー今回の作品において「ゲイのホームパーティー」を題材にされた理由を教えてください。

前作が『凪』(なぎ)というサスペンス短編作品だったんですが、とある映画祭の審査員の方に「女の子ふたりを描いた映画を撮影したのが男性ということに少し嫌悪感がある」と言われ、びっくりしたのと同時に、制作側の見た目やセクシュアリティが映画製作に影響することもあるんだと実感しました。それまでは同性愛を題材には考えていなかったんですが、改めて自分に向き合ってみたときに、僕自身が投影できる題材で撮影したいと思った、それがきっかけです。

以前何度かゲイ同士のクリスマスや花見に誘われたことがあるんですが、「いつもの気心の知れた仲間」だけではない「初めましての参加者」がいる集まりって、自己紹介や会話だけではなく、品定めだったり、マウンティングだったり、下心を含んだ駆け引きだったり、言葉にできない「視線のやり取り」が飛び交っているじゃないですか。楽しいけどすごく疲れるし、ゲイ特有の情報量も多い。こうした状況を作品にしたら面白いんじゃないかと、ゲイのホームパーティーを題材に選びました。

ーー川野邉監督としては、特にどんな方に観ていただきたい作品だと思われますか?

この面白さを一般の方々に伝えたらどう反応するんだろうという好奇心もあるし、まだゲイバーなどにデビューしていない高校生だったり、若いゲイの子たちに体験してもらって、これからのゲイライフを謳歌して欲しいという応援の気持ちもあります。

LGBTQ当事者の方が多く来場くださった第30回レインボーリール東京の上映では物語後半のシリアスなシーンなのにずっと「ゲイのあるあるネタ」に笑いが起きていました。ゲイの方にとってはある意味「修羅場も客観的に見たらコメディ」みたいな、現実にも起こりうるシュールな状況を楽しんでもらいたいです。

女の子に伺った感想としては、7人の登場人物の誰に共感したかがみんな結構バラバラだったんですが、どのキャラクターに感情移入するかで、普段の自分のポジションが分かるのかもしれません。
共通して「観終わった後に友達と恋バナしたくなる」と言われたので、恋愛映画としても楽しんでいただけると嬉しいです。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーの場面写真

ーーそれぞれ個性豊かな7人の登場人物には、それぞれ実在のモデルはいたりするのでしょうか?

現実のモデルはいないのですが、どのキャラクターも僕の一部を投影していると思います。もちろん、僕だけの経験が基になっているわけではなくて、今回脚本を書くために、新宿二丁目だけでなく大阪や福岡のゲイバーにも行って、いろんな人の恋愛話を参考に抽出して、それぞれの人物像が完成しています。なので、いろんな人にとって自分をあてはめられる個性が描けたんじゃないかと思います。
ただ、ホームパーティーを主催するカップルの片方の靖(ヤスシ)だけは僕ではなく「ある方」をイメージしています(誰かは言えない)。

僕が初めてゲイ同士が集まるパーティーに参加したのはクリスマスだったんですが、たぶん40人くらいいたんです。そこに顔見知りの方がいるのを見つけたら友達に「どこで知り合った人?」って聞かれたんです。実はエロ系イベントで出会ったんですが、そうしたら「そういうのは正直に言うもんじゃないよ」って諭されて。え、聞いたのそっちじゃん、みたいな。初心者ながら「ゲイの社交マナーって独特だな」って実感したのを覚えています。そういう初々しい頃の自分の経験なども少し投影しています。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーのインタビュー写真

ーー今回の映画化にあたって、出演キャストはどのように決められたのでしょうか?

中には出演されている舞台などをきっかけに直接声をかけた方もいるのですが、基本的にみなさんにはオーディションに参加していただいて決めました。応募ではセクシュアリティを問わずだったのでもちろんゲイ当事者であることをアピールして参加くださった方も何人かはいらっしゃいましたが、最終的には作品の世界観を表現できる方を選ばせていただきました。撮影前も撮影後も、あえてご本人のセクシュアリティは聞いていません。

この作品はゲイをテーマにしていますが、「恋」「友情」「人間関係」はセクシュアリティの話ではないので、演者さんのセクシュアリティはそこまで重要ではないと思っています。

衣装を一緒に買いに行ってお互いのイメージを作り上げたり、参考のためにゲイバーに飲みに行ったりという事前のコミュニケーションもありましたが、それぞれの俳優さんが個々に自分の中で演じるキャラクターを育てて撮影に挑んでくださった結果、素晴らしい作品が完成したと感謝しています。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーの場面カット

ーー今後もゲイやLGBTQコミュニティーを題材にした作品を撮りたいお気持ちはありますか?

今は具体的には考えていません。
今作は短編を含めて4作目なのですが、毎回作品を完成した後に新たな課題が見つかるんです。『ボクらのホームパーティー』は自分の中のアイデアやイメージを膨らませて映像にしたのですが、演出だったり現実離れした幻想的な映像だったり、100%満足できるものだったとは言い切れない部分があります。

長編が初めてだったこともあり、演者さんの立場というのもすごく影響を受けて、実は僕自身が演技を改めて学び始めるきっかけにもなりました。いずれは自分の実体験をもっと深く掘り下げてゲイのメロドラマを撮ってみたい、例えば三島由紀夫の昭和の貴族階級の社交界ゲイのような作品を予算をかけて幻想的に撮ってみたいという気持ちもありますが、それがいつになるのかはわからないです。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーの監督

少しさかのぼった話をすると、本当は2020年の4月に撮影の予定だったのが、実際に撮影できたのはコロナの第一波の緊急事態宣言が解除された7月だったんです。作品自体を書き上げたのがコロナより前だったのですが、撮影が延期されたことで5月、6月も脚本の手直しをしながら「もしかしたらもう撮影できないのかも」って不安を抱えていました。

当時は曙橋に住んでいたので気分転換に新宿二丁目に散歩に来ても街が真っ暗で。自分がこれまで見てきた景色や楽しい場所がこのままなくなってしまうんじゃないかという寂しさもあって、なんとしてでもコロナ前の新宿二丁目の喧騒と魅力を映像に残したいという気持ちで乗り越えた気がします。完成後もやはりコロナの影響で編集スケジュールが調整しづらかったりと様々なトラブルがありましたが、こうしてみなさんにお届けできる日が来たことをとても感謝しています。

映画というのは「自分が撮りたいもの」だけじゃなくてタイミングとかもあると思います。同時に、その時でなければ伝えられない想いもあると思います。ぜひ、みなさんに『ボクらのホームパーティー』を観ていただき、なにかしら心の残るものを提供できたら嬉しいです。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーの場面カット

ストーリー/都内の大学に通う『智也』は、好意を抱いていた友人の幸平に「好きな人がいる」と告白される。 その時の出来事を相談したい一心で、新宿二丁目にやってくるものの、なかなか一歩を踏み出せないでいる智也。 そんな姿を見兼ねたゲイバーの店子『将一』は彼を自分の店に招待する。

その一方で、別れた恋人との傷心を忘れ去るようにゲイクラブで飲み明かす『正志』。 クラブの店員『直樹』に悩みを打ち明け二人は親密になるが、お互いに関係をはっきりさせることができずにいた。

翌朝、いつもと同じように会社で勤務する『彰人』。 乗り気でない会社の飲み会も終えて家に着くが、同棲しているパートナー『靖』はまだ帰ってきていない。 浮気を知りながらも、そのことを話せずに、ホームパーティーの準備を勝手に進める彰人。 また、靖もそんな自暴自棄に振る舞う彰人とどう向き合えばいいのかわからずにいた。

ゲイ映画のボクらのホームパーティーの場面カット

ホームパーティーに、智也も急遽参加することになり、彰人の家に招かれる一同。 美味しいご飯やお酒で楽しい時間が続く中、しばらくして靖の友人で写真家の『健一』がパーティーにやってくる。 アーティストという肩書やルックスで健一は注目を集める中、彰人だけ別の感情を抱いていた。

夜が更けていき、酔いも進む中、楽しいパーティーは少しずつ形を歪めて、心に閉じ込めていた各々の思惑や感情が溢れ出していく…。

■川野邉修一
1991年東京都江戸川区出身。法政大学情報科学部デジタルメディア学科卒業。映画美学校第16期初等科フィクションコース卒業。大学卒業後は都内で会社員として勤務を続ける傍ら自主映画を製作。6年間務めた会社を退社し、映画美学校第10期アクターズコースに入学。主演を務めた短編映画『泥人』(2013)が2014年調布映画祭グランプリを受賞。監督作品に『凪』(2017)第一回渋谷TANPEN映画祭脚本賞/助演女優賞/21st CHOFU SHORT FILMグランプリ/SKIPシティ国際映画祭入選。初の長編作品となる新作『ボクらのホームパーティー』(2022)は大阪アジアン映画祭2022/第30回レインボーリール東京に入選。

■ボクらのホームパーティー
>2022年11月19日(土)~12月2日(金)/2023年1月7日(土)〜13日(金)東京・K’s cinema新宿にて上映
>2023年1月21日(土)~27日(金)大阪・シアターセブンにて上映
>2023年2月〜3月 名古屋・シネマスコーレにて上映予定
https://bokupa-movie.com
Twitter@BokupaM

取材・インタビュー/みさおはるき
写真/新井雄大
素材提供/ボクらのホームパーティー © 野辺組
記事制作/newTOKYO

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