
映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映像作品をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第73回目

このコラムをお読みいただくみなさんの大半はゲイだと妄想しております。そんなみなさんの間で、男性同性愛を扱いつつも「別ジャンル」として長年扱われてきたのがBL。いや、全部が全部じゃないんですけどね。でも腐女子層(愛を持って使わせていただきます、この言葉)に刺さる作品であればあるほど、当事者からは「ねーわ」と。かくいうあたしは、大昔に『JUNE』(※ボーイズラブ雑誌)にハマった腐れ脳なもので、この深くて長い溝はなんだろうってずっと思ってきたわけです。
だって、ゲイ雑誌や同人の作家さんたちの作品だって、BLと似た設定で会社や学校の先輩&後輩や取引先同士だったりするわけで。で、ようやく謎解けたとなったのが、コロナ禍にゲイ(特にミドル層以上)にも訴求した『2gether』シリーズと、昨年のNetflixシリーズ『ボーイフレンド』。その理由はあとで記すとして、今回紹介するのは、このほど公開される『(LOVE SONG)』は、『2gether』劇場版の監督・スタッフと日本の制作陣&俳優で実現したBLでございます。
物語はシンプル。学生時代にカイへの恋心を抱きつつ伝えられなかったソウタは、会社の転勤でタイへ。そこでびっくり、カイと6年ぶりの再会。石橋を叩いて壊しちゃうほどこじれるソウタ、かたや石橋を見たら即スキップでわたっちゃうタイプのカイ。ノスタルジーに浸りつつも、互いのすれ違いを認識しあい……ほんじゃこの2人はどうなんの? ってお話。

これを、ガチムチ青年でやるとゲイ向けになるんでしょうけど、ウィンくんとSnow Man 向井さん。もー完全に女子向け。でもね、やっぱり時代は変わったって思ってるの。というのが、前述の『2gether』と“ボイフレ”の風味がしっかりあるから。
“ボイフレ”は当事者性にこだわり&配慮しつつも、ビジュはBLの世界観。『2gether』は当事者性はない従来のBLっぽさのくせに、恋愛一辺倒じゃない世界観。これよこれ。だって、親密な関係にも選択肢がたくさんあって、恋や愛をしてもしなくても、なんなら友情の延長線くらいで満足って人もいるんだもの。たしかにもともとのBLは「女性が妄想恋愛を安全にふくらます場」として機能していたし、その目的は男性優位の社会があるかぎり続いてしまうと思うんだけど、ずっとそうではないだろうし、そうであってほしくないの。
だからこそ、『(LOVE SONG)』のようにパッと見はBLだけど、アップデートされた細かい描写のある恋愛ものが出てくるのは必然。とはいえ、これまでBLが苦手……といってた人にいきなりこれを見ろとは申しません(なんせ王道なんで)。このタイトルとこういう考え方の変化があるってことだけ頭に入れておいてね。
ということで、長らくご愛読いただきましたこのコラム。今回でとりあえずお休みに入らせていただきます。コールドスリープなので、またいずれ〜。
◆『(LOVE SONG)』 10月31日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
https://movie-lovesong.jp/
監督・脚本:チャンプ・ウィーラチット・トンジラー
出演:森崎ウィン、向井康二、ミーン・ピーラウィット・アッタチットサターポーン、及川光博 ほか
配給:KADOKAWA
文/よしひろまさみち X@hannysroom
イラスト/野原くろ X@nohara96
記事制作/newTOKYO