映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映画をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第36回目
この10年くらい、エンタメ性が高くて評価の高いゲイ映画が増えてきたのは御存知の通り。ですがーーー! 問題があるのですよ。それらどれもに共通するのは「若い人が活躍する」映画なんですな。
もちろん、それはそれでOKだし、もっとやれ! って話ではあるんだけど、これから自分らが歳を重ねていくにあたり、先輩方の話も観たいわけですよ。向学のためにも。近年だと『人生は小説よりも奇なり』(14)とか、香港の『叔・叔(スク・スク)』(19)とかありましたが、まだまだ少ない!
そんな中、出ました。『スワンソング』は人生の黄昏時を迎えた、かつてキラッキラのゲイライフを送っていたヘアドレッサーのお話。実在の人をモデルにしたのもナイス!(物語はフィクションよ) あらすじはググって。それ以上に語らないといけないことがあるのですよ。
これまで高齢ゲイのお話が題材にならなかったのは、対象世代が自分らしく生きることをヨシとした世代じゃなかったから。でもこれからは違うのよ。パットのように「街の名物ゲイ」くらいに自分を出して生きてきた人もいれば、親兄弟には拒絶されててもそれ以外には受け入れられている人もいるし。ほんっと様々な高齢ゲイが存在するわけ。
そこに切り込んでくれたのが嬉しくてね……。だって、パットのエピソードだけでも泣けるもの。パートナーがエイズで死んでいて、彼名義の土地財産は全部甥っ子に持っていかれたとか。地元ゲイバーはパットと同世代ゲイしか行かなくなっているとか……。切ないったらありゃしない。
でも、その切なさを超える感動は、「次の世代にバトンを渡す」というエンディング。これには驚いた。どういうことかはスクリーンでのお楽しみなんだけど、ある意味『プリシラ』のバーナデット(テレンス・スタンプ)を観たとき以来の大感動。ぜひぜひ映画館で!!
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■スワンソング
ストーリー/かつて街の名物として愛されたヘアドレッサー、パット。養護施設で暮らす彼のもとに、現役時代に仲違いをした親友の死の報せが。しかも彼女はパットに死に化粧を依頼する遺言を遺していた。気持ちが揺れ動きながらも、彼は施設を抜け出すのだが……。
監督:トッド・スティーヴンス
出演:ウド・キアー、ジェニファー・クーリッジほか
配信:2022年8月26日より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
文/よしひろまさみち Twitter@hannysroom
イラスト/野原くろ Twitter@nohara96