トランスジェンダーのMTF当事者(からだの性は男性であるが、こころの性が女性である)が性別適合手術と合わせて、施術を希望することが多いという膣形成手術。
膣形成手術は性別適合手術のおいて必ず必要とされるものではないが、施術を希望する人は多いと言う。そして、その手術のアフターケアとして必須になってくるのが「ダイレーション」。手術をして終わり、と言うわけにはいかないのだ。
今回は、MTF当事者で膣形成手術を考えている人にとって大切な「ダイレーション」の基礎知識について、ナグモクリニック名古屋院長 山口悟先生にお話を伺いました。
ダイレーションって、膣形成手術をしてしまったら半永久的しないといけない?
ーーダイレーションについてお伺いする前に、膣形成手術は戸籍変更に必須なのでしょうか?
性器が女性器に「近似」していれば戸籍変更の要件は満たしますので、膣の有無は問いません。パートナーとの性交渉のため、あるいは完成した女性器を持つという満足感のために膣形成を希望される患者さんがほとんどです。
膣形成には皮膚反転法、皮膚移植法、S状結腸法があり、いずれもダイレーションは必須ですが必要な頻度や回数には違いがあります。
ーーなるほど。それではダイレーションの正しい方法や頻度について教えてください。
そもそもダイレーションとは、形成した膣に拡張棒(ダイレーター)を定期的に挿入することで、膣が狭くならないようにする行為のことです。手術の方法や術前の患者さんの状態(膣形成に必要な組織の量)、あるいは手術の出来にも左右されますので一概に全て同じではありませんが、術後1ヶ月は一日2、3回、一回30分程度は必要で、徐々に拡張棒を太くしていきます。
半年くらい経ちますと、皮膚で作った場合は2、3日に一回、S状結腸によるものでは週一回程度ないしは必要がなくなります。
ーーどうしても痛みに耐えきれない場合、途中でダイレーションを止めるという選択肢はあるのでしょうか?
最初は誰でも痛いです。特に皮膚で作った場合には痛みは強い傾向があります。ダイレーションを止めることはもちろん可能ですが、止めると膣が狭くなります。痛みを和らげる方法としては、「柔らかめの棒を使用する」「棒の先端を尖らせる」「毎回細い棒から徐々に太くする」「お風呂上がりに行う」などが効果的でしょう。
ダイレーションを怠ると、皮膚で作った場合は特に入り口付近が狭小化し性交渉に使用不可になります。S状結腸の場合も、入り口付近が狭小化しやすくなりますが、一定期間がすぎるとダイレーションの必要がなくなります。
ーー膣形成手術後、セックスや自慰行為などにおける性的快感は術前同様に得られるのでしょうか?
男性器の性的興奮はペニスの先端とシャフト部分の刺激に依存しています。亀頭の一部が陰核として残っていますので、理論的には陰核部分から術前に近い性的興奮が得られますが、体積が小さくなる分、オルガスムに達することができない方も半数程度います。
ただし、形成した膣の少し奥の上の方に前立腺に接する部分があり、その部分で大きな性的興奮を得られる場合があります。それは男性器の時は通常は得られないものですから、術前とは違う女性器による新しい性的興奮と言えるでしょう。
ーー最後に、一度膣形成手術を行った場合、再度のペニス形成は非常に難しく、特に海綿体の形成は現代医療では不可能。元に戻すことはできないため、担当医と幾度と話し合いを重ねた上で受ける手術であるという認識を持っておくことが必要だ。
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協力/日本性科学会
臨床的な研究や診療を通じて性の健康(セクシュアル・ヘルス)の推進をはかる専門家団体。性の健康とは、セクシュアリティ(人間の性の多面性をすべて包含する言葉)の身体的、心理的、社会的な幸福(well-being)のことです。
https://sexology.jp/
ナグモクリニック名古屋院長 山口悟先生
https://www.gidcenter.com/
イラスト/だ~やまぽんぴぃ
Instagram@ponpii_official
取材・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO