【第10回/ゲイカルチャーの未来】日本のゲイムーブメントを支えてきたオープンリーゲイの文化人類学者/砂川秀樹インタビュー

昭和から平成、そして令和にかけて50年近く、ゲイメディアの主流として様々な情報や出会いを発信し続けてきた商業ゲイ雑誌。昨年1月末に不動の人気を博した『バディ』が休刊し、今年4月には最後の砦であった『サムソン』も休刊。日本の商業ゲイ雑誌の歴史に幕を下ろした。

時代を遡ること26年前、バディが創刊された頃はまだ、一般のゲイ読者が雑誌に顔出しで登場する時代ではなく、当事者たちにとってもゲイコミュニティはミステリアスで、知らないことだらけだった。そして、現在はインターネットが主流となりカミングアウトする人が増え、SNSや動画配信でもゲイ個人が自分の個性を活かして大きな影響を生み出している。

「ゲイメディア」=「ゲイ雑誌」という単純で分かりやすかった時代が終わり、商業ベースのマスメディアから、個人が情報を発信するインフルエンサーへと時代が移り行く過渡期の今、伝説的ゲイ雑誌を創った4人が語るこれからを担うゲイに託す未来への希望。そして、日本のLGBT文化を支え続ける7人の瞳に映るゲイカルチャーの未来を届ける全11回のインタビュー特集をお届け。

オープンリーゲイの文化人類学者の砂川秀樹

第10回目となる今回は、
1990年代にHIV/AIDSに関する活動に関わり始め、2000年以降、東京と沖縄でプライドイベントを開催するとともに、新宿二丁目をテーマにした博士論文を完成させるなど、多岐にわたる活動・研究を通し、日本のゲイカルチャーを発展させてきた砂川秀樹さん。90年代ゲイブームほどのインパクトと熱量はないけれど、以前よりも確実にLGBTを取り巻く環境が変化した今をどう思っているのか伺った。

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──力づけられた90年代ゲイブームと現在。その時代のゲイのイメージと表現の形とは。

私は、自分が経験してきたこと、その中で考えてきたことを伝えることで、誰かの何かのヒントになればと思うので、そんな自分の話をしますね。

私がゲイとして社会活動に関わるようになったのは1990年からです。1980年代後半、HIV差別とゲイ差別が結びついていく流れや、「エイズパニック」と呼ばれる現象が起きるのを見て、人権問題として関心を持つようになり、学習会に参加したのがきっかけでした。
「エイズパニック」もおさまり、世間でHIVに関する関心がなくなった頃、90年代の「ゲイブーム」が起きました。その中で、ゲイ自身がマスメディアに多く出るようになったことに力づけられましたし、ゲイをテーマにしたドラマ『同窓会』が放送されて、友人と内容についてあれこれ話したりしたことを覚えています。2010年代以降は、それとまた違った形で、LGBTの人権問題などが一般にも広く知れ渡り、様々な変化が起きてきましたよね。田亀源五郎さんの『弟の夫』や『おっさんずラブ』などゲイを扱ったドラマがいくつも作られて。

『同窓会』と『おっさんずラブ』は、いくつかの設定が似ています。どちらも、ある意味異性愛者として生活してきた男性が主人公です。それぞれ、もともとの同性愛的欲望のあるなしが違う印象はありますが。突然目の前に現れた男性との関係の中で、異性愛者としての経験と同性への恋愛感情に揺れる主人公。そこに他のゲイや女性との関係性が混ざり交錯。結婚やカミングアウトの問題も形は違えど盛り込まれている。でも、1993年の『同窓会』は全体的に悲観的で暗い内容でしたし、最終的に、中心的な存在のゲイ二人のうち一人は亡くなり、一人は、唐突な印象を与える異性カップルとしての結婚に収まります。
一方の『おっさんずラブ』は、主人公のはるたん以外の男性に恋する男性たちは、恋そのものには悩みつつも、同性に惹かれていること自体はそんなに悩んでないように見えます。また、周りも同性愛への肯定感が強い。最終回は、はるたんは幼馴染の女子とくっつくのだろうな、と思っていたので、ゲイカップルが誕生して終わったのは感動しました。

比べてみると、やはり、その時代のゲイへのイメージが反映されてるんだなぁ、と思います。でも、基本的には、実際の生活では同性愛は『おっさんずラブ』のように、オープンに、カジュアルに扱える環境は、まだかなり少なかったりもしますね。同じ時代の同じゲイにもいろんな経験があるので、もっとさまざまな表現が、いろんなレベルでおこなわれるといいな、と。もちろん、他のマイノリティに関する表現は、もっと出てきて欲しいですよね。

画像左から/著書『カミングアウト』(朝日新書)、『カミングアウト・レターズ』(太郎次郎社エディタス)、『新宿二丁目の文化人類学』(太郎次郎社エディタス)

──生きやすい社会のメッセージはパレードだけに限らない。「ピンクドット沖縄」というスタイルとは?

私は、2011年に故郷の沖縄に帰り、2013年に『ピンクドット沖縄』というLGBTプライドイベントを共同代表として始めました。2016年には、東京に戻りましたが、その年まで、計4回、共同代表を務めました。しかし、距離もあり、生活上続けるのが難しくなったので、共同代表を辞めることにして、私と一緒に始めたもう一人の共同代表、宮城由香もともに辞めることになりました。そこで、実行委員の人たちに継続できるか尋ねたのですが、開催継続は無理という話になったんですよね。中心的に動いてくれた人は、皆、30代前半だったので私よりだいぶ若い人たちだったんですが。そのため、とりあえずイベントを休止することにして、お世話になったスポンサーに連絡をしました。すると「ここまで盛り上がったのに休止にするのはもったいないので私たちが引き継ぎますよ」って提案してくれて。

結果、元々スポンサーだった観光業界の、LGBTではない人が代表になり、『ピンクドット沖縄』を継続してくれることになりました。LGBTのプライドイベントだけど、運営の中心がLGBTじゃないっていうのは、珍しいケースかもしれません。沖縄の観光業界の人は、「観光地沖縄を誰が訪れても安心して楽しめる場所にしたい」と考えていて、その一部として、ピンクドット沖縄の継続への熱意を持っているんです。

ピンクドットというのは、シンガポールで始まったもので、ピンクを身につけて集まって、「LGBTなど性的マイノリティがより生きやすい社会を」というメッセージを、最後に参加者で集合写真をとってアピールするというスタイルです。それは社会に対する力強いメッセージなのだけれど、シンガポールで開催している様子を動画でみたら、公園に集まって友人や家族とピクニックを楽しむような感じで、とても温かいのんびりとした雰囲気でもあるんですよね。なので、直接的な主張を押し出す表現が嫌われがちな地方では、最初におこなうプライドイベントとして合っていると思い、私は沖縄でピンクドットを開催しました。

その動きの中で、那覇市や観光業界の人を中心に、地元の企業など、いろんな分野の人たちとつながれたのはよかったと思っています。今は、LGBT関係で何かをやろうとしたときに、そうしたつながりをつくれる土壌が広がっていますよね。それは、これから新しいことを始めるときの、やり方、形の選択が増えているということだと思います。

──時代を反映する表現方法はさまざま。若い世代の新しいコミュニティの形成に期待。

今振り返ると、自分が1990年からやってきた様々な活動も、自分にとって表現の一つでもあったと思うんですよね。HIVに関する活動を中心にしているときにやった、VOICEというゲイの音楽グループやドラァグクィーンが参加した音楽イベントはわかりやすい例ですが、他のコミュニティに向けての発信も。パレードやピンクドットも。

今の時代は、個人でも大抵のことがインターネット上で表現できる時代ですね。もちろん、それだけでやっていくのも一つの形です。でも、私たちは、インターネット上以外の関係性に生きる土台があるので、インターネット以外の場での表現も活発であって欲しいなぁと思います。実際にやってる人がたくさんいるわけですが、自分で計画して会場借りる形での、展示会、展覧会、音楽イベントや芝居をやるとかいう意味で。社会問題に関する集まりも。

先に話したドラマもそうですが、どんな表現も常に時代を反映しています。そして、表現をしていくとき、それまでにその人が生きた歴史も混ざっていくので、同じ時代に表現しても、年を重ねた人と若い人では、当然違う表現になっていくと思います。そういう意味で、常に、若い世代がどういうものを作り出していくのか関心があります。いつでも表現は始められるけれど、その時々にしかできない表現があると思うので、結果をおそれることなく、いろんなことを試して、新しい表現を開拓していって欲しいと思っています。

■ 砂川 秀樹/すながわ ひでき
文化人類学者、ゲイ・アクティビスト。1990年よりHIV/AIDSやLGBTに関するコミュニティ活動を行い、2000年に、実行委員長として東京レズビアン&ゲイパレードを開催して以降、2010年の東京プライドパレードまで東京のパレードを牽引した。2013年には、沖縄初となるLGBTプライドイベント『ピンクドット沖縄』を共同代表として実現。2018年4月に最新著書『カミングアウト』(朝日新書)を出版。
■ note:すなひで
■ Twitter@H_Sunagawa

取材・インタビュー/みさおはるき
編集/村上ひろし
写真/EISUKE
記事制作/newTOKYO

※このインタビューは、月刊バディ2019年3月号(2019年1月21日発行)に掲載された「ゲイカルチャーの未来へ/FUTURE:From GAY CULTURE」を再編集してお届けしております。

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