スターバックスで過ごすひと時はなぜ、あんなにも心地いい? Social Impactチーム・林さんに聞いた「Our Mission and Values」の精神がス・テ・キ♡

LGBTフレンドリーのスターバックス のインタビュー

「とりあえず、スタバいく?」。
そんな言葉が耳、あるいは口に馴染んでいる人も多いのではないだろうか? デートやハングアウトはもちろん、勉強に打ち合わせ、新作フラペチーノを楽しみに足を運ぶ人まで…一つの空間の中で各々が心地よいひと時を過ごせる『スターバックス』は、私たちのサードプレイスとして日常生活に溶け込んでいる。

「TOKYO RAINBOW PRIDE 2018」への初出展以降、よりLGBTフレンドリーな企業として認知されはじめた『スターバックス コーヒー ジャパン』。マーケティング本部広報部・Social Impactチームの林絢子さんは「多様な人、生き方、働き方があるのは当たり前ということをスターバックス コーヒー ジャパンを通して多くの人に知ってもらうことで、初めて社会に考えるきっかけももたらすことができる」と、ダイバーシティ&インクルージョンにまつわる社内での取り組みを積極的に発信することを心がけている。

今回はスターバックスのサポートセンター(本社)や店舗で働くパートナー(店舗スタッフの呼称)の人たちに宿る「Our Mission and Values」というミッション、そして林さんがキーパーソンとなった「TOKYO RAINBOW PRIDE」への出展や「#NOFILTER2020 Tokyo」タンブラーの製作・販売について伺った。

──スターバックスに関わる全ての人が、自分らしい時間を過ごすために…。魔法の言葉「Our Mission and Values」とは?

スターバックスのミッションのOur Mission and Values

スターバックスの企業理念である「Our Mission and Values」のMissionは「人々の心を豊かで活力あるものにするために。ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」と定め、それを達成するための行動指針となるValuesを5つに明文化している。

サポートセンターや各店舗で働くパートナー、そしてお客様…スターバックスに関わる全ての人が人間らしく、何より自分らしいひと時を過ごすために大切にしているミッション、それが「Our Mission and Values」です。社内におけるMissionの浸透は、入社後のオリエンテーション、店舗研修とステップを踏み、その都度意見を交わしながら価値観を擦り合わせていきます。

人間らしさ溢れる、そして温かみのある空間づくりには、ただOur Mission and Valuesを覚えるだけでなく、一人ひとりが考え勇気を持って行動し続けることがとても大切なことなのです。それを深く理解していただくために、時間や工数を厭わず丁寧に共有しています。

スターバックスの林さん

ダイバーシティ&インクルージョンという視点で、このミッションを考えてみると 「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化を作ります」というセンテンスが深く関わっているのではないでしょうか。お客様にはジェンダーやセクシュアリティ、年齢、カルチャーなどそれぞれのバックグラウンド含め多様な人、生き方、働き方があること、ゆえに一人ひとりに違いがあるのは当たり前であるということを、活き活きと働くパートナーや店舗、一杯のコーヒーを通して感じ取ってもらえたら、嬉しいですね。

昨今、LGBT当事者の方たちへの理解が急激に加速する中でダイバーシティを推進・啓発し始める企業様も増えてきましたが、弊社ではそういった使命感からの活動ではなく、あくまで従前から掲げているミッションの一環としてLGBT当事者を悩ます諸問題と向き合っています。そのため、ダイバーシティ推進やセクシュアルマイノリティのために何か特別なことをしなくてはいけないという感覚はゼロに等しいんです。一人ひとりに違いがあるからこそ社会が成立している、ただその違いで不利益が生じているのなら全力で必要なサポートをする、そういった感覚に近いのかもしれません。

スターバックスの林さんのインタビュー

そういったことから「LGBTだから…」ではなく、皆がフラットに働ける職場を目指すために「同性パートナーシップ登録制度」及び「性別適合手術のための特別休暇制度」を2017年1月に導入しました。前者に関しては、トランスジェンダーの方とお付き合いをしていた一人のアルバイトパートナーの「戸籍上は同性同士だけど、家族として認めて欲しい」という声から設けられました。よくよく考えると、このような声を挙げること自体、世間一般的に考えると非常にハードルが高いとは思うのですが、自分らしく働くことを大切にし、勇気ある行動が紡いだ結果であると「Our Mission and Values」の精神を感じた瞬間でもありました。

2020年8月現在、この「同性パートナーシップ登録制度」を利用しているカップルは7組、「性別適合手術のための特別休暇制度」は0人ですが、一企業として受け入れる体制は整備されています。ただ、LGBT当事者のパートナーに「制度はあるけど、相手がいないの~」と相談されることもしばしば。その時は「それは自分を磨いて、自分でいい人を見つけるしかないの。異性間であってもそれは同じことよ~」と、冗談交じりに話をしたりします。こういった何気ない恋愛話をできる空気感というのも、私はもちろんLGBT当事者の方たちにとっても心地のいいものなのだと思います。

──「あえてLGBTを意識した取り組みをするのも、社会的インパクトをもたらすためには必要」。社外へのアウトプットを積極的に行う理由とは?

私は2017年に『スターバックス コーヒー ジャパン』に入社、店舗研修を終えた後、正式にマーケティング本部広報部Social Impactチームの一員として配属されました。弊社に対しては、入社以前から環境やジェンダーにまつわる社会課題と向き合い、持続可能な社会づくりに貢献・先導してきたイメージを抱いていましたが、組織の人間の一人として、もっと社外へ伝えれば良いのにと勝手ながら思っていました。これは「当たり前」という言葉の認識の差異とも捉えられるのですが、当時、スターバックスでは当たり前とされてきた取り組みやマインドを各種イベントや店舗等のキャンペーンで形として強調すること自体、スターバックスらしくはないという感覚があったようで、社内で行われている素晴らしいダイバーシティな取り組みもほとんど社内で完結、外部へアウトプットする機会はほとんどありませんでした。

そういった現状の中、「Our Mission and Values」に立ち戻り「『お互いに認め合い、誰もが自分の居場所と感じられる文化をつくります』の”誰もが”=パートナーだけではなく、お客様そして社会全体がそうであるように」と考えた末、今までとは真逆にあえてダイバーシティ&インクルージョンに関わる情報の発信や各種イベントへの参加を積極的に行う方向性へとシフトしました。

そうして2018年、「TOKYO RAINBOW PRIDE」へ初出展することに。長年、一人ひとりの個性を尊重してきた弊社だからこそ、このような大規模イベントで性の多様性を表現しても、他ブースや来場者の方たちからも違和感を抱かれるということはないだろうと考えたためです。いざ出店してみると…周りの方たちから「スタバさんは、今回で何回目ですか?」「やっときてくれましたね!」など、本当に多くの方からお声がけいただきました。会社が明確にLGBT ALLYであることを社外へも発信したことで、店舗パートナーの方たちがより会社への思いが強くなったかもしれないですし、おこがましい話ですが多様性を自然に受け入れている弊社だからこそ、社会に気づきやインスピレーションをもたらせることができるかもしれない。スターバックスの「当たり前」を世の中へアウトプットすることで、社会的インパクト、そして誰もが暮らしやすい社会へ貢献できるのではと考えるようになりました。

本来であれば今年で3回目の出展となる予定でしたが、新型コロナウイルス防止対策としてやむを得ずイベント自体が中止に…。
ただ、「TOKYO RAINBOW PRIDE2020」に合わせて製作していた、「#NOFILTER2020 Tokyo」タンブラーは幸いにもネット販売を通じて、全国各地のお客様の手元にお届けすることができたので、それだけは不幸中の幸いかなと。ちなみに今回のタンブラーは、台紙デザインではなく、一つのタンブラーとしてプリズムのように輝くレインボーカラーとラメが眩いデザインに。「withlove」や、2018年からダイバーシティ&インクルージョンのメッセージとして掲げている「#NOFILTER」は私の強い意向で、入れていただきました(笑)。

このタンブラーの売り上げの一部は、LGBTを含めた全ての子どもがありのままの自分でオトナになれる社会を目指すNPO法人『ReBit』の活動資金として寄付し、ともに「レインボー学校プロジェクト」を実施します。過去二回は会場でタンブラーやドリンクの販売を行い、参加することに意義を見出していましたが、TRPにおいてはこのプロジェクトを皮切りに継続的に社会へ良い影響を与えられるような取り組みをしていければ良いなと考えています。

■ スターバックス コーヒー ジャパン
1996年8月、東京・銀座に日本1号店がオープン。互いを認め合い自主性を重んじることを掲げた「Our Mission and Values」のミッションのもと、誰もが自分らしくいられるために、そして自分の居場所であると感じられるコミュニティ・空間づくりを一杯のコーヒーを通して提供し続けている。近年では、「TOKYO RAINBOW PRIDE」への出展やプライド月間に合わせてレインボーカラーのタンブラーを販売するなど、積極的にLGBT ALLYであることを表明している。
■ 公式サイト
■ Twitter@Starbucks_J
■ Instagram@starbucks_j

取材・インタビュー/芳賀たかし
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO