自身のセクシュアリティを「グレーゾーン」とボカしていたことで注目を浴びていた声優の三ツ矢雄二さん。2017年1月放送のバラエティ番組で「ストレートかゲイかと言われたらゲイ」とカミングアウトしたことが話題になった。
未だにカミングアウトが珍しがられる今日の日本で告白した彼の決断は、今後のゲイシーンにきっと影響を与えるだろう。そんな三ツ矢さんのテレビでは語られなかったゲイとしての「これまで」と「これから」を伺った。
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――テレビ番組で「ゲイ」をカミングアウトしての反響はどうでしたか?
カミングアウトした番組に出演した時は「収入に関して聞きたいから」という依頼で、当初はカミングアウトをするつもりが全くなかったんです。
たまたまMCの河本さんに「ゲイなんですか?ストレートなんですか?」と二択を迫られてしまい、まあ今年で僕も63歳になるし、兄も定年退職したし「ま、いっか」と軽い気持ちで言ったらそこばかりクローズアップされちゃって。
自分としては20歳の頃から40年数年間オープンにしていたつもりだから、逆に“ゲイ”という言葉に対する世間の反応に少し驚いてます。
「ゲイです」と言葉にすることによってゲイという言葉が持つ重さが、グレーゾーンとはこんなに違うんだなと…。
――声優業界では元々カミングアウトしていらっしゃたようですが…
ゲイをオープンにし始めた一番大きなきっかけは声優を始めた20歳の頃で、海外ドラマのゲイ役のオーディションを勧められたんです。その頃はあまり大っぴらにしていなかったのに、やっぱり人が見て分かるんだなって。役にも一発合格しちゃって。同じレギュラーだった松金よね子さんから「そっちって言っちゃった方が楽よ」って言われて仲良くなったこともあり、新宿二丁目の『NEW SAZAE』に連れて行ってもらったりしました。
その頃から「どうなの?」と聞かれれば「ゲイです」って答えていたから、業界的には知られていたと思います。
――セクシュアリティをオープンにしたメリット・デメリットはありますか?
こういう特殊な仕事だからカミングアウトできるというか、ゲイというセクシュアリティが仕事の一部になってて、例えばディズニーアニメの『スティッチ』ではブリークリーっていう女装好きの宇宙人役を一発でキャスティングされたり。オカマっぽいキャラクターだったり、普通と少し違うキャラクターが出てくると僕をキャスティングしてくれたり、そういう意味では得してる部分はあるかな。
僕は隠して生きる方が辛かったと思うから、そういう意味では幸せですよね。逆にテレビでカミングアウトすることを批判する人もいると思うんですよ。だけどその人たちを気にして生きていくことは自分にとって苦しいわけで、その人が僕の人生のプラスになることをしてくれる保証は何もないわけです。だからあえて詮索しないようにしています。
――声優「三ツ矢雄二」であることで、ゲイとして困ったことはありますか?
実は20歳から32歳まで一人の男性とずっと一緒に暮らしていて新宿二丁目にも出てなかったこともあり、ゲイの友達が少ないし僕の中にゲイ友達を作るノウハウがないんですよ…。
その辺はこれから先の課題。新宿二丁目にはときどき誘われて年3~4回くらい来るんですが、お店に飲みに行くことが嫌いじゃないし、みんな優しいし、ただやっぱりすごく気を使われちゃいます。
テレビに出てたり声優でも大御所みたいな扱いになって特別視されちゃうところとか…。逆に悲しいというかもっと普通に接してもらって全然いいのになって思いますね。
――最近の活動とこれからの展開について教えてください。
主宰していた劇団をダウンサイジングして、公演回数も減らして、自分の時間を作りたいと思ってます。
今まで声優に加え、作詞、演出など、様々な仕事をしてきて時間に追われてきましたが、少し仕事を選び、自分の本当にしたいことに人生の時間を費やしたいと思っています。
また女優の東ちづるさんの『Get in touch』というグループのお手伝いもしています。このグループは障害を持つ人々やセクシュアルマイノリティの人々の支援をしていく団体です。ともかく、これからは大風呂敷ではなく、バンダナ程度に包めるぐらいの仕事を地道にしていきたいと思っています。
またもう年も年なので、週単位ではなく、月単位で物事を考えていきたいと思っています。今月できることは何だろうと、頭の中で良く咀嚼して、毎日を過ごしていきたい。できないことを背伸びして頑張るんじゃなく、自分の出来ることを地に足を付けてこなしていきたい。まずはゲイに関する小説や戯曲を書くということから始めたいですね。あと趣味で、歌が好きなので、小さなライブハウスでも良いから歌ってみたいと思っています。
――LGBTのイベントにも参加されていますが、今後も積極的に活動されていくのでしょうか?
内容的に自分のやりたいことと合致すれば、積極的に参加していきたいです。
逆にこちらからもゲイに関する行動を起こしていかなければと考えております。また、ゲイじゃない人に、ゲイのことを理解してもらえるよう頑張りたい。
何をどう行動すれば良いか、暗中模索ですけど、ゲイの友達や仲間を増やしつつ、ゲイを世の中の人に分かってもらえたらなと思います。ゲイのサークルの方や、大学でゲイの活動している人からの勧誘を待ってます!
――最後に全国のLGBTの方々にメッセージをお願いします。
僕は誰でも彼でもカミングアウトすれば良いとは思ってないし、ただカミングアウトしないことが苦しいと思ってる人がいるのであればそれは考えた方が良いかな。そうじゃなく暮らしていけてる人がいるならそれはそれで良い。
カミングアウトすることでもちろん相手に戸惑いはあると思いますけど、その人があなたを認めていれば理解してくれるはず。言っちゃった方が楽になる場合もある、その代わりに辛い思いをすることもある。自分がカミングアウトした方が得か損か、自分にとって納得がいくかいかないか、そのバランスを見て自分で見極めてカミングアウトするかしないかは決めた方が良いと思う。
僕はテレビで言っちゃっても友達は減らなかったけど、逆に逃げていく人や敬遠してる人ももちろんいると思うんですよ。
悩んでるんだったら考えなさい。本当に愛してくれてる人なら一時的に悲しませてしまうかもしれないけど、絶対どこかで理解してくれるはずだから、理解してもらえるってことを信じてほしいですね。
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プロフィール/三ツ矢雄二
日本の声優、マルチクリエイター。アニメ「タッチ」の上杉達也や、「キテレツ大百科」のトンガリ役など数多くの声優を務め、第7回声優アワード「富山敬賞」を2013年に受賞。
http://www.mitsuya-project.jp
Twitter@yujilovehappy
取材・インタビュー/カズ
写真/EISUKE
記事制作/newTOKYO
※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp