韓国を拠点に世界で活躍するタトゥーイスト・Rocco。彼のタトゥーがLGBTQ+コミュニティ、特にゲイから支持されるのは、SMやフェティッシュなどゲイカルチャーのステレオタイプとはかけ離れた、穏やかでリアルな生活を切り取ったデザインだ。
半永久的に残るものだけに技術はもちろん、顧客と彫り師の信頼関係も重要視されるが、Rocco自身がオープンリーゲイでLGBTQ+当事者のセーフティスペースが確保されているという点も、多くの当事者が足を運ぶ理由の一つ。
タトゥーを通じてLGBTQ+コミュニティを内側からエンパワーメントするRocco。彼のルーツをどうしても知りたくてDMを送ってみたら、韓国からオンラインインタビューに応じてもらえた(韓国と日本は時差が無いというのは、このとき初めて知りました)。
ーー「暴力的なエロ」といったステレオタイプなゲイではなく、穏やかな日々を表現したかった。
ーータトゥーイストになった経緯を教えてください。
昔から絵を描くことが好きだったので、美大卒業後は画家としてキャリアを確立したいと考えていました。しかし、絵だけで生計を立てるのは難しくて、2019年に半ば妥協する形でタトゥーイストの仕事を始めました。
当時は全く新しいことを始めたというより、イラストのスキルを活用して技術を身につけていく感覚がありました。
ーー施術はどのように行っていますか?
普段は韓国にある自身のスタジオで施術を行っています。古い家を改装した温かみのある空間となっているので、居心地はいいと思いますよ。また、自分のデザインを気に入ってくれるお客さんがいれば、その方が住んでいる都市まで足を運んで施術することもあります。
ただ、私が施術する場所以前に大切にしているのは、お客さんとの信頼関係ですね。タトゥーを彫るというのは、お客さんの身体に針を刺していく行為。そのため、私に身体を委ねてもいいと思ってもらえることが重要なんですよ。逆に言えば、私のタトゥーの技術を信頼さえしてもらえれば、場所はさほど重要ではありません。
ーー筋肉質な男性やゲイカップルをタトゥーとして彫るようになった背景には、どのような経験が影響していますか?
理由は定かではないのですが…おそらく学生時代に女性の身体を描くと自信を喪失していた一方、男性の身体を描くとエネルギーが漲り、自然と自信で溢れたという経験が影響していると思います。大学時代に受講していたクロッキーの講義では女性のヌードよりも男性のヌードを多く描き続け、何度も練習をしていましたね。
それに私はゲイセクシュアルで男性の同性愛や身体を日常的なものとして捉えています。だから、よりゲイフレンドリーなデザインに仕上がるのだと感じています。
ーーその一方で表情は可愛らしく、ギャップも印象的です。
ゲイコミュニティを代表する著名な作品は、SMやフェティッシュカルチャーと密接に繋がっていて、時に暴力的なエロのようなイメージで表現されることがありますよね。
私はそういったゲイのステレオタイプからインスピレーションを得るのではなく、彼らの何気ない日常やリアリティを表現したくて、今のデザインを確立させました。私が手掛けたイラストやタトゥーを見た方の中には、「穏やかで温かな雰囲気だ」とコメントしてくれる方もいます。
ーー韓国の LGBTQ+コミュニティをエンパワーメントするRoccoの次なるステップ。
ーーRoccoさんのもとを訪ねる人たちは、LGBTQ+コミュニティに属する人が多いですか?
ほとんど、そうですね。未だにLGBTQ+当事者の人権保障がされていない韓国で、アイデンティティを視覚的に表現したいと強い意志を持つ数多くのオープンーリーゲイの人たちが、私のもとを訪ねてくれることについては感謝の気持ちしかありません。また、同性婚が認められている欧米やゲイフレンドリーなアジア諸国のお客さんも多いですね。
過去には長年付き合った同性パートナーと結婚したというカップルが足を運んでくれたこともあって、そのときは本当に嬉しかったです。彼らには結婚を祝福するために2人のイラストが描かれたデザインのタトゥーを彫らせてもらいました。思い出や記念としてタトゥーを刻ませてもらったカップルは、これまでにたくさんいます。
ーー韓国のLGBTQ+コミュニティについて話が出たので、もう少し詳しくお聞きしたいです。
LGBTQ+コミュニティに関しては先ほど少し触れたように、韓国社会が追いついていない現状があります。自分がゲイであることを誰かに言わない限りは問題なく過ごせますが、家族や会社の同僚、友達にカミングアウトするとなると、自分が望んでいるような反応は返ってこないかもしれません。
政治的な側面で言えば、韓国には日本のようなパートナーシップ制度は存在せず、パートナーシップをはじめ保険や年金、遺産相続などに関わる法律の制定に取り組んでいるところです。まだ、LGBTQ+シーンにおける大きな変化は見られませんが、それでも社会は良い方向に少しずつ変わっていくと信じています。
ーー最後に、Roccoさんの目標があれば教えてください。
タトゥーイストとしての活動は、画家になるための第一歩です。これまで日本の小説家である村上龍さんのエッセイ『案外、買い物好き』の韓国版イラストを担当するなどキャリアを積んできました。タトゥーイストとしての活動は継続しながらも、今後はイラスレーターとしての活動にも力を入れていきたいと考えています。
あ! それと日本ではまだタトゥーを施術したことがないので、いつか日本のお客さんとも出会えたらいいなと思っています!
◆Rocco
韓国出身・在住のタトゥーイスト。2019年より活動を始めて以来、韓国やシンガポール、タイ、フランス、アメリカ、オーストラリアなど国内外で300人以上にタトゥーを施術。可愛らしい顔に筋肉質な身体つきの男性を軸にしたデザインがゲイ当事者からの多くの支持を得ている。イラストレーターとしては芥川賞作家である村上龍のエッセイ『案外、買い物好き』(幻冬舎)韓国語版の表紙イラストを担当した。
Instagram@roccotat
画像提供/Rocco
取材・翻訳・文/Honoka Yamasaki
英訳/Lady-J
編集/芳賀たかし