アムステルダムでの現地取材をもとに、LGBTQ+にまつわるアレコレを紹介する不定期連載企画「アムステルダムって、どこ?」。ちなみに、アムステルダムは世界で初めて同性婚が合法化されたオランダの首都なので、覚えておいて損はないよ。
第1回目はアムステルダム市全域で毎年7月下旬〜8月初旬にかけて約一週間、大規模開催される『プライド・アムステルダム』のプログラムの中から、キャナルパレードをお届け。
世界遺産にも登録されている運河を活かし、カラフルに装飾されたフロートは清々しさに満ち溢れていた。
ーー願いと誇りを乗せたボートが運河を行く。数十万人が訪れるLGBTQ+の祭典「キャナルパレード」
現地時間の2022年8月6日(土)に開催されたキャナルパレード(運河パレード)。
アムステルダムは、幾重にも扇状に巡らされている運河が特徴的で、世界遺産に登録された運河を約6時間かけて、およそ80の色とりどりに装飾されたフロートが航行する、『プライド・アムステルダム』(ダンスパーティーや映画上映、討論会や展覧会など、LGBTQ+に関する様々なイベントが170以上行われる)のメインイベントだ。
コロナ禍からウィズコロナを経てアフターコロナにある今、3年ぶりの開催というだけあって、沿道は歩くのも困難なほど多くの住民や観光客で埋め尽くされていた。
EDMのダンスミュージックに合わせてハイネケン(アムステルダム発祥のビールだってこと知ってた?)片手に体を揺らしたり、子どもと一緒にフロートに手を振ったり……思い思いにキャナルパレードを楽しむ街の人たちを眺めながら、市街を歩くのが心地良く感じられた。
2001年に世界で初めて「同性婚」を合法化したオランダ。多様な生き方を当たり前として受け入れてきた20年間が作り出した街の空気は、開放的であり、自由という言葉がぴったり当てはまるものだった。
パレードを先導するのはジェットパックを巧みに乗りこなす、妖精の衣装に扮したアジア系男性を含む3人。仰々しさを感じない、インクルージョンの魅せ方がいい。また、アムステルダム市の女性市長であるフェムケ・ハルセマさんも楽しげにダンスをする場面も。
それに続く各団体が乗船するボートはカラフルな装飾が施され、人々もこの日ばかりと思い思いの衣装に身を包む。青空が広がる中、運河沿いはどこを切り取っても、みんなが幸せそうなオーラに包まれていたのは言うまでもない。
今年のスローガン「my gender, my pride」のもと、自分が自分らしく生きることを讃えながら、フロートは街を突き進んでいく。
私たちの身近でよく知る組織・団体で言えばブッキングドットコムやハイネケン、社会の授業で習ったことがあるであろうアムネスティインターナショナル、UNCHR(国連難民高等弁務官事務所)といったフロートの参加はもちろん、2019年に「プライドハウス東京」チームが参加したのとは別に、アジアにルーツを持つ人々が乗った初のアジアンプライドのフロートも大きく存在感を放っていた。
また、アムステルダム市や同市で有名なBDSM(ボンデージ/拘束、ディシプリン/懲罰・しつけ、ドミナンス/支配、サブミッション/服従、サディズム、マゾヒズムの頭文字を取った人間の性的な嗜好の中で嗜虐的性向をひとまとめにして表現する言葉)ショップ「Mister B」、消防隊などもメッセージを発信し続けながら、終着点のウェステルドックへとさらに進む。
BDSM愛好家から企業、公務員までが一つのイベントに参加する光景は、とてもユニークであることと同時に市民のLGBTQ+への理解が深いことも垣間見える。
かといって、「LGBTQ+コミュニティの権利向上のために、パレードに参加しなくては」といった類の、窮屈な義務感は感じられない。
ただただ楽しいから参加したい、観に行きたいというそんな純粋な気持ちがプライド・アムステルダムやキャナルパレードをひとつに紡いでいるのだろう。
楽しいという気持ち以上に人の心に残るポジティブなメッセージはあるだろうか、そう考えるとある意味それぐらいがちょうどいいのかもしれないとも思う。
ーー受け手の感受性を信じてとことんエンタメに。楽しい、その気持ちから伝わるメッセージだって、きっとあるから。
『プライド・アムステルダム』に訪れる人々にはティーンや家族連れも多く、セクシュアリティやジェンダー、年齢、国籍、人種など、垣根となるものを一切感じさせない。
それはアムステルダム市後援の大規模なイベントであること、190カ国以上の国籍と出身地の人が暮らす国際的な都市であることも多分に影響しているだろうが、それだけが理由ではない。
プライドウォークのような権利向上を訴える社会運動を皮切りに、至る所で行われるストリートパーティやメインイベントのキャナルパレードなど含む40もの公式プログラムは、いずれもキャッチーで分かりやすいのだ。
日本におけるプライド関連のイベントと言えば、東京レインボープライドをはじめ、各地でレインボーパレードが開催されるようになったものの、やはりダイバーシティ&インクルージョン社会へ向かう過渡期。
それもあってか、パレード然り講演会が大半を占め、その中でもLGBTQ+コミュニティやアライ企業といった当事者傾向が強い人々の参加・出展が目立つ。
LGBTQ+コミュニティについて知る機会というのはなくてはならないもの。ただ、LGBTQ+コミュニティの枠を超え誰もが楽しいと思える体験、そして「誰か」の感受性を信じてエンターテインメント性を重視するスピリットから学ぶべき点は多いだろう。
自身のセクシュアリティやジェンダーはもちろん、法律婚や事実婚、パートナーシップなど人生を歩む上で国民の選択肢が保障されている自国に、誇りを持ち生きていけるオランダ国民がとても羨ましく感じられた。
日本でも各自治体におけるパートナーシップ制度の導入が進み、東京都では今年11月からスタートする。制度を利用するしないに関わらず、多様な生き方を認め合い、誰もが自分らしく生きられるためには必要な一歩。
また、同性婚への実現も含め、互いの立場を尊重しあえる国へと日本が前進することを祈る。
なお、早速ながら『プライドアムステルダム2023』の開催が来年7月30日(日)〜8月6日(日)に決定。物価高などの影響でなかなか海外旅行へ行きづらい状態ではあるが、ぜひバケーション先の候補としてオランダやアムステルダムを考えてみてはいかがだろう。
ーーきっと日本にはない眩しいくらいの光景に、今までの価値観が砕かれるはず。
最後は、運河沿いで見かけた素敵な二人をプレイバック。自分を表現するって、やっぱり気持ちがよさそうだよね。見ているだけで幸せのお裾分けをしてもらって、ハッピーな気分で締めくくる♬♬♬
■アムステルダムって、どこ? #01
取材・文/芳賀たかし
写真/EISUKE
協力/駐日オランダ王国大使館、ダッチ・カルチャー
記事制作/newTOKYO
※本取材は駐日オランダ王国大使館が実施するビジタープログラムの一環として行いました。