【アムステルダムって、どこ?#03】Cher LOVERなノンバイナリーのリックさん。お部屋、それからあなたのことを聞かせて。

アムステルダムのダッチカルチャーのリック

アムステルダムでの現地取材をもとに、LGBTQ+にまつわるアレコレを紹介する不定期連載企画「アムステルダムって、どこ?」。ちなみに、アムステルダムは世界で初めて同性婚が合法化されたオランダの首都なので、覚えておいて損はないよ。

第3回目は現地取材に同行してくれたコーディネーターのリックさんにまつわるレポート。ファッショナブルな装いと笑顔に魅せられて急遽、リックさんのお部屋でライフスタイルをうかがうことにしました。

ーー修道院をリノベーションしたアパートメントの一室は、パートナーと集めたこだわりのアイテムでレイアウト

みなさん、はじめまして。私の名前はリックです。
「DutchCulture」と「Queer Network Amsterdam」という2つの組織に所属して有色人種やトランスジェンダーの権利向上に取り組んだり、LGBTQ+のためのネットワーク構築をしたりすることを仕事としています。

「誰もが安心して生きることのできる社会の実現」が、私の目標なんです。さて自己紹介は、こんな感じで大丈夫かな?(笑)

Cherの誌面

ーーばっちりです、ありがとうございます。それでは、気になるお部屋をご紹介していただいてもいいですか?

OK。私はアメリカの歌手・Cher(シェール)の大ファンだから部屋のあちこちに彼女にまつわるコレクターズアイテムがたくさんあります。
例えば、これ。とある雑誌の切り抜きなんだけど、パートナーが誕生日にプレゼントしてくれました。

小さくて読みにくいのですが、ここのヘッドラインに書かれている「Breaking-barriers(境界線を破る)」というメッセージは私自身の取り組みにも通じていて、気に入っているので額縁に入れて飾っています。

ダッチカルチャーのリックのインタビュー

もちろん、今では珍しいレコードもコレクションしています。その中でも1973年にリリースされた「Carousel Man」は車の中でも聴くほどお気に入りの一曲。もちろんカラオケでもよく歌うよ。

他にも彼女がリリースした楽曲の歌詞やリリース、経歴が掲載されている本やフィギュアなどを多数コレクション。彼女への愛でいっぱいなんですよ。

これは、アムステルダムミュージアムで開催されている期間展「Collecting The City」で展示されてる私と友人の2ショット写真。コロナ禍の中でアムステルダムの住民がどのような日常を送っていたのか、そして当時の街の様子を収めた写真展なんです。

その中で「Cagde Night birds」という、LGBTQ+コミュニティの人々の当時の様子を映し出したチャプターのうちの一枚として展示されています。

オランダのハーレムの様子

ーーすぐにでもこの部屋に住みたいと思えるほど素敵な空間ですね。一番気に入っている部分はどこですか?

それは嬉しいね、ありがとう。
やっぱりこの大きな窓と天井が高いところ。窓から運河が望めて、いつでもバケーションを過ごしているような感覚になるところかな。それとキッチンも大好きなんだ。料理が趣味だから調味料もたくさん、得意料理はビーフシチューです。

そして、パートナーとコツコツ収集した雑貨が並べられた部屋全体の雰囲気が気に入っているかな。それにここは元々、修道院だったところをリノベーションしたアパートメントになっているので、共用部の廊下にはステンドガラスが残っていたりして、光が射すととっても綺麗なんです。

異性装をする理由を話すリック

ーー自分らしさを表現することが、「次の世代のインスピレーション」に繋がると信じてる。

ーー今度はリックさんのセクシュアリティや生き方などについて教えてください。

私はノンバイナリーで二者択一の領域の中では生きていません、それらを超えたところで生きているんです。なので今みたいに中性的、女性的な服を着ることで自分自身をオープンにして私のような人がいるということ、そして私と同じような人々を社会に受け入れてもらいたくて、洋服やメイクを通して思いを表現しています。

同時に異性愛規範に対するプロテストのようなものでもあり、異性愛規範が無くなるまで続けていきたいと思っています。

ーー街中を歩いているとき、リックさんを見てネガティブなリアクションをする人を見かけました。ご自身も気付いていると思うのですが、それでも貫けるのはなぜですか?

今のような装いをし続けるためには、たくさんの葛藤がありました。ただ、他人からのネガティブな視線や言葉を真正面から受け止めて辞めてしまうのは、私自身の信念を諦めてしまうのと同じこと。それだけはしたくなかったんです。

それに、次の世代の人たちに良いインスピレーションを与えることができると信じているから。
例えば、小さな子どもが私の今の姿を見て「自分もこういう風にしていいんだ」と思えるきっかけになるかもしれないでしょ? 男性は男性、女性は女性というようなシステマティックな社会構造が変わるまで、続けていきますよ。

ーーパートナーとの話が出たのでうかがいたいのですが、ご両親や家族には紹介されていますか?

パートナーとは4年の付き合いになりますが、誕生日などの特別な日は二日間の移動時間をかけて一緒に家族のもとへ行くこともありますし、逆に私たちの家に来てもらったりもします。家族のほとんどが私自身、そして私たちの関係性を受け入れてくれています。

最近になってフェイスブックのマイページに、パートナーとしてお互いのアカウントをリンク付けして公表するようにもなりました。友達の8割がクィアコミュニティの人で、中にはヘテロセクシュアルの人もいますが、みんなアライ(理解者)です。

アムステルダムのダッチカルチャーのリック

ーー日本のLGBTQ+コミュニティでは、4年間付き合っているカップルは長続きなイメージがあるのですが、良好な関係性を築くために大切にしていることを教えてください。

クィアカルチャーではセックスに重きを置かれることが多いですよね。でも、私たちにとって一番大切なのは信頼関係です。それさえあれば、何があっても乗り越えられるはず。今、彼は仕事でベルリンに滞在していて、もしかしたら私の他に良い人と出会う確率もありますが、私は彼を信頼しているから。

もちろん、喧嘩をすることもあるけれど、根底には愛があるのでヤキモキすることはありませんよ。あ、それと週一回は夕飯を一緒に食べるよう意識する、これも大切なことだと思います。

ーーありがとうございました。とっても素敵なお部屋でリックさんのお話を聞くことができて嬉しいです。

こちらこそ、ありがとうございました。それじゃ、今日のスケジュールまで少し時間があるからハーレムを散策してから、アムステルダムへ向かいましょう。

■アムステルダムって、どこ? #03
>Instagram@busscherrick
>Instagram@dutchcultureamsterdam
>Instagram@queernetworkamsterdam


取材・文/芳賀たかし
写真/EISUKE
通訳/桑原果林(ソウ・コミュニケーションズ)
協力/駐日オランダ王国大使館、ダッチ・カルチャー
記事制作/newTOKYO

※本取材は駐日オランダ王国大使館が実施するビジタープログラムの一環として行いました。