どう生まれてきたかを知れば、命を大切にすることに繋がる。どろんこ保育園が実践する、5歳児への性教育。

どろんこ保育園の5歳児の性教育

全国130箇所以上の認可・認証保育園にて年齢差や障がいの有無関係なく、子ども一人ひとりの人格・選択を尊重する“インクルーシブ保育”を実践してきた、どろんこ会グループ。

自ら考え行動できる子どもを育む独自の子育て方針の中で、5歳児を対象とした「体と命の大切さを学ぶための性教育」が注目を集めている。
今回はプログラムで取り扱う「体の性」、そして日々の生活の中で感じた「心の性」について思うことを、福岡県『春日どろんこ保育園』の北原園長にお話を伺った。

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家族に愛され生まれてきた体を、大切にしてほしい。2日間に分けて行われる性教育プログラムとは?

保育園の5歳児の性教育の様子

――まず初めに、どろんこ会グループで「5歳児への性教育を実施している」と聞いた時、素直にどう思われましたか?

転職したばかりの頃は正直、「未就学児へ性教育をするって、どういう話をするんだろう」と疑問に思ったのは確かです。
ですが、赤ちゃんが生まれるまでの過程に焦点を当てる小学校の性教育とは違い、自分がいかに愛され育てられてきたのか、そこに重点を置いて教えるということを知って、とても納得しました。

今では、子どもたちが、親やおじいちゃん、おばあちゃん、ひいては周りにいる人たちに想われていることを知るというのは、“自分自身を大切にしなくてはいけない”という気持ちの芽生えにも繋がるのではないのかなと思っています。

5歳児の性教育の様子

――では、実際にどろんこ会グループで行っている「性教育プログラム」の内容を教えてください。

プログラムは2日間に分けて行われます。
1日目は、木製の人体パズル(服を脱ぎ着でき、骨格や内臓が分かるようになっている男の子、女の子のパネル)を使用して、性別による身体の違いを説明した上で、「プライベートゾーンは見るものでもなく、見せるものでもなく、自分だけの大切な場所である」ということを知ってもらいます。

すると、このぐらいの年代の子どもたちがおふざけで行うスカートめくりやズボン脱がしといったことも、早い段階でそれは“いけないこと”だと理解できるようになるんです。

5歳児の性教育の絵本

2日目は、赤ちゃんから5歳を迎えた園児自身がどのように成長してきたのかをお話しします。
読み聞かせで使う絵本は『おちんちんのえほん』(ポプラ社)という、プライベートゾーンについてはもちろん、性差や性被害、命の誕生についてギュッと詰まった作品を活用して行っています。

最初はおっぱいやおしり、おちんちんという言葉に反応しておふざけしてしまうこともありますが、紙に穴を開けて実寸大の卵子の大きさを確認したり、ももちゃん人形(1か月から10か月まで、実際の胎児のサイズ・重さを模した人形セット)を実際に抱っこしたりするうちに、子どもたちがみるみる真剣な表情になっていくんです。 

プログラムを終えた後日、保護者から
「赤ちゃんが生まれる話をされたんですか?」という言葉に続けて、「子どもから『お母さん、僕を産むの大変だったんだね、ありがとう』と言われ。今まで話してこなかった、家族ができるまでの大切な話を息子たちに伝えられるようになりました」というご連絡もいただくことがありました。

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男の子、女の子ではなく“一人の人格”として接することで、子どもの「なりたい」「したい」を制限しない!?

どろんこ保育園の5歳児の性教育について

――実際に「心の性」という点では何か子どもたちにお話しされることはあるのでしょうか?

先ほどお話しした性教育プログラムでは、心の性についてお話しすることは含まれておりません。
ただ、“おもちゃ”や“色”もそうですが、男の子、女の子というような性別で何かを区切るようなこと、言葉がけはしないようにしています。それは、一人ひとりの人格として向き合い、その子が何をしたいのか、どうなろうとしているのかを大切にしているからです。

正直、私も保育士になりたてで別の保育園に在籍していた頃は、園の方針と言えども男の子は青、女の子は赤かピンク、男の子はこっちに並んで、女の子はあっちに並んで……など、性別で区切るようなことをしてしまっていました。
今振り返ると、赤を嫌う女の子はいましたし、緑を選ぶ子に指定の色を選ぶよう促すこともありました。

どろんこ保育園の施設

インクルーシブ保育を実践するどろんこ会グループの保育園では、先ほどお話した通り、おもちゃや色、遊び方は全て子ども次第。それは職員同士でも大切にしている共通認識の一つとなっています。

例えば以前に、工作で雪だるまを作る時間があったのですが、先生がオレンジの鼻と赤の帽子となる紙を予め用意していたことがあって。
その際「子どもたちに色を選ばせた方が、面白いかもしれないよね」と声をかけ、結果、子ども一人ひとり、本当にカラフルで多種多様な雪だるまを作ることができたんです。

どろんこ保育園の性教育

――北原園長はこれまで「もしかしたら、自身の性別に違和を感じているのかも…」といった子どもたちと接したことはありますか?

「うちの息子、自分のこと『私』って言うんです。変でしょう……」と、入園時にお母様が話されていた子がいました。「アイドルになりたい」とフリルのついたワンピースを着たがる男の子もいました。
いずれの保護者も当初は悩んでいる様子でしたが、私からは子どものありのままの姿を伝え続けました。保護者の方も、我が子が好きなものを着て生き生きしている姿を見て、徐々に受け入れられたようでした。

ちなみに卒園後、小学校ではズボンの上にスカートを穿いて登校したり、水色のランドセルを買ってもらったという報告を聞くこともでき、なんだか微笑ましい気持ちになりましたね。 

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子どもたちへの性教育が当たり前になることが、ジェンダーにおける平等社会への大きな一歩になる。

どろんこ保育園の性教育に取り組む様子

――今後、子どもにとっての性教育はどうあるべきだと感じているのでしょうか?

“性教育”と聞くと、中には批判的な考えを持つ保護者も少なくないと思います。私も昔は、そうでしたから。性教育=赤ちゃんができるまでの性交渉といった過程にフォーカスして教えるという印象が強いのかもしれないですが、まずはそうじゃないよということを知ってほしいと思っています。
実際に性教育プログラムの様子を参観した保護者からは「この子が生まれた時の喜びや瞬間を思い出しました」と、批判的な考えから一転して賛同いただける声もあります。

大人になると性知識をごまかして子どもに教える場面が多いと思うのですが、誤った情報を教えることだけは避けてほしいです。
実を言うと、保護者の方にこそ参加してほしいプログラムでもあるんです。それが、ありのままのお子さんを受け止めること、セクシュアリティやジェンダーの隔てなく誰もが幸せを感じながら暮らせる社会に繋がると考えています。

――どろんこ会グループ広報部・松本さん
ユネスコが提唱している国際セクシュアリティ教育ガイダンスに則り、5歳からの性教育プログラムを取り組んでいますが、やはりその歳ぐらいになると「男の子って?女の子って?」という疑問を子どもたちが持ち始めるんです。その時、大人が「性教育は恥ずかしいことではなく、大切なこと」という認識を持ち、正しい知識を教えていくことが重要なのではないでしょうか。

男女ではなく、一人の人間として自分を理解し、他者を受け止めるこころが大切。現に北原園長が言うように、性別違和を抱えているかもしれない子どももいるわけですよね。そういった戸惑いを身近な大人が受け止める流れが、当たり前に出来ていくことは一つのゴールでもあります。私たちどろんこ会グループに限らず、未就学児を預かる全国各地の施設で性教育が浸透して行くよう、これから私たちのノウハウや知識をシェアする事に一層、力を入れていければと思っています。

■ 社会福祉法人どろんこ会
2007年設立。自ら考え行動できる“にんげん力”を育てることを目標に「掲げ、異年齢保育・インクルーシブ保育を実施。家族、地域、園が一体となり、子育てをすることで、日常の生活・遊び・労働から生きる力を身につけて行く保育が注目を集めている。
https://www.doronko.jp/
Instagram@doronko_official

写真提供/どろんこ会グループ
取材・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO

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