【GLITTER BALL】感動のフィナーレ。アゲハ最後のゲイナイトは、次のステージへの煌めきで溢れていた。

日本のクラブシーンを牽引し続け、様々な世代が体験してきた、あの眩い光景が有終の美を迎えたーー。
惜しまれつつも約20年という長きに渡る歴史に幕を閉じた、ageHa / Studio Coast(以下、アゲハ)。
1月22日(土)に開催されたゲイナイトのラストステージ「GLITTER BALL」は、クラブだけに止まらない感動と、これからの私たちの生き方に、多くのメッセージを投げかけてくれるものとなった。

興奮冷めやらぬ一夜から半月。
アゲハという唯一無二の場所が残してきたもの、15年以上ゲイナイトを開催してきたプロモーター・吉田利信氏の想いと共に、今回はその感動の全貌を振りかえる。

ーー音楽の旅、マッスルボーイ、ゲイエロスが最大限に詰まったメインアリーナの全貌

ーーMUSIC,FASHION AND SOUL…
吉田氏が掲げてきたスローガンには、「ゲイピープルの夢と希望を、音楽とエンタテインメントに乗せてプロデュースしていく」という想いが常に込められていた。そして「GLITTER BALL」は、彼の人生の総決済とも言うべき「大人の夜のWONDERLAND」を演出したのだった。

会場内にある全5エリアそれぞれで各パーティが開催された当日は、どのステージもタイムテーブルがびっしりで立て続けにショウタイムが行われていた。その中でも最大規模を誇るメインアリーナでは1時間置きにパフォーマンスが行われ、360度から展望できる中央のお立ち台ステージの熱狂はまさに最後に相応しいクオリティだった。

全体を見渡すと、DJのビートに身を任せて音に酔いしれている人、ゴーゴーボーイのフェロモンに魅了されてチップというラブレターを捧げている人、推しやクイーンの華やかな姿を観に来たストレート、そして、今回が初めてのアゲハ体験だった人も多く見受けられた。多種多様な人たちが最後のアゲハという一時代のファッドを楽しみに来ていたのだ。

ーーメインアリーナのシンボルでもある巨大ミラーボールに反射したレーザービームが、まるで太陽のようにフロアを光の海へと変えていく。この光景をもう二度と体感することはできないんだ、とひとかけらの寂しさを胸に抱えつつも、同時に五感を刺激する音楽で胸が高鳴っていくのを感じた。

今回のゴーゴータイムでは総勢33名が顔を揃えた。今宵限りのカムバックを果たしたレジェンドゴーゴーボーイが魅せるベテランのパフォーマンス。もぎたての果実のようなフレッシュさを振りまくニューフェイスも立ち並ぶ。全世代・全ジャンルを網羅するかの如く活気に沸き「日本のゲイナイトはこんなにエロティックでカッコイイんだ!」と誇らしい想いを抱かせてくれたステージは、まさに桃源郷(Shangri-La)そのものだった。

ーー25時、メインアリーナがざわつき始める。突如暗転した会場でステージ中央に現れた光のフレーム。その中から次々とモデルたちがセクシーなアンダーウェア姿で登場したのだ。長年、アゲハのゲイナイトスポンサーを務めてきた「GX3」によるランウェイショウでは、30名を超えるゴーゴーボーイとモデルが、ステージを練り歩き、もっこりフロントを揺らしながら、観客の視線を一堂に集めた。

コットン、ナイロン、エナメル素材……ボクサー、ビキニ、ジョック型……スポーティー、ハードスタイル、そしてファッショナブル。ゲイに愛され続ける「GX3」のアンダーウェアに秘められた多くの魅力を、鍛えられた神々の肉体が身に纏い降臨する伝説の時間。ラストはステージ中央に全員が集合、「ゲイドリーム」のような漢神だらけの絵図で決めてみせた。肉々しくパワーみなぎるカタマリに、終始写真撮影をする人で溢れかえったのは言うまでもない。

ーー光り輝く宝石のように、ステージから切り拓く未来への架け橋。RUSHCRUISEショウケースの全貌

ーー今あるものや過去の栄光を大切につつ、新しい時代を切り開いたのが「RUSHCRUISE」のショウケース「Jewels」。立ち止まるのではなく、進化することの先に可能性があることを知らしめた。

26時、ステージに現れた一人の男性。
そこは未来。パソコンに打ち込んでいるのは、後世に語り継ぐための煌びやかな当時の様子。薄れ行く記憶を辿りながら書き残していく中で、過去がクロスオーバーしていく。そして、一人の美女が現れ、彼に「もうすぐショウが始まるわよ」と魔法の言葉を告げると、男性の服を一瞬にして変身させる。

……遠くから近づいてくるサウンド、鳴り響く鼓動、「この音……せっかくだ……楽しもう!」
そこから一気に舞台の幕が上がる。ステージいっぱいに組まれたひな壇には何十人というダンサーたちが勢揃いして会場を圧巻する。Live It Up♬(ジェニファー・ロペス)を華やかに踊り明かす瞬間の感動体験は、まさに輝きを放つ宝石箱だ。

そして、ドラァグプリンセス・Vera Strondhの力強いダンスを筆頭に、ステージのエネルギーが加速していく。ルビー、オパール、トパーズ、サファイア、エメラルド、アメシスト、パール、ダイアモンド、その他様々なジュエルたちの、彩光に溢れた豪華絢爛なショウが選りすぐりの名曲と共に繰り広げられていく。

フィナーレは、全パフォーマー&ダンサーら、総勢約80名がステージに揃い、Love’s About To Change My Heart♬(ドナ・サマー)で、華やかでカッコいいビートながら、わずかに愁いの混じったエンディングで締めくくった。
会場全体に降り注いだ紙吹雪は、まるでまどろみの中、静かに夢が覚めていくような感覚だった。

ーー今回のショーケースのシナリオはアゲハを想って書かれたものだ。
ダンサー兼ゴーゴーのAKIを中心に、オーガナイザーのRIOTOと枝豆順子の演出チームが魅せたかったもの。そこには「終わったとしても、心の中に輝きがある限りまたどこかで煌めき始める」という、前向きなメッセージが込められたのだという。

そして、宝石の持つ“煌めき、輝き、眩しさ”は、表面的なものだけではなく、「自分もゲイナイトのステージに立ちたい」「次世代の新しいクラブを作りたい」など、これから育まれる“光の原石”に託すという熱い想いのもと、「Jewels」と題されたことを知ることとなった。

プロモーター・吉田氏はDJブースからショーを見守り、ただただ涙を流していた。その瞳から零れ落ちていたものもまた、輝く宝石のひとつだったのではないだろうか。

ーー唯一無二。アゲハが誇るゲイの一体感。多種多様なイベントで盛り上がる各エリアの全貌

ーー大寒の中、股間を熱くさせてくれたのは、乱雄會主催「六尺ケツ割れ大祭」。
テント前に設置された御神輿は映えスポットを兼ねた、漢の世界観を伝えるモニュメント。その向こうには六尺やケツ割れ姿の漢が群がる景色が広がっている。

テントステージでは、野郎系太鼓集団「打勇太鼓」によるフェロモン溢れる太鼓演舞や、「ケツ割れナイト炎の野郎祭」プロデュースによる雄くさいゴーゴーショウタイム、さらにトレーニングを楽しむジムウェア「THRUST」によるスポーツウェアショウなど、タフな漢たちが釘付けになる露出多めの内容が盛りだくさんで、これぞゲイナイトといった漢祭りの光景が広がっていた。

ーーすぐ隣のエリアでは、K-POPにフィーチャーしたパーティ「OPPA」が開催。
今最も人気を集めるジャンルなだけあって、初登場ながらも観客は大いに沸いていた。またメジャーナンバー以外にもマイナーな本国ナンバーまでしっかり取り上げられ、それに歓喜する人も多く、トレンドカルチャーの偉大さを感じさせられた瞬間でもあった。

中でも面白い施策だったのは、フリーステージ台が設けられたこと。ショウ以外では使われないお立ち台を一般解放したことで、来場者が思い思いにダンスを楽しみ、知らない者同士が立ち位置を変えながら、推し曲を完璧に踊りきっている姿は圧巻。ダンスを通しての出会い・コミュニケーションが確かにあった。

ーーコロナ禍の中で惜しまれたのは、ミラクルひかるがゲスト出演するはずだった「宇多田ナイト」。自身も15年ぶりの出演を楽しみにしていたというだけあってライブが実現できなかったことは残念ではあったものの、フロアの熱気が衰えることはなかった。やはりゲイが愛する歌姫の一人、“宇多田ヒカル”のパワーは強かった。

ただハッピーで楽しいばかりが人生ではない、生きていくことは簡単ではないけれど、そこには愛がある。宇多田ヒカルはいつでもそんなメッセージを語りかけてくれる。3年8ヶ月ぶりのフルアルバム「BADモード」を祝した今回の開催、ゲストによる生歌ライブも盛り上がり、都度曲が流れるとみんな一緒に口ずさみ、ひとつの空間を共有しあった。

ーーアイランドエリアは、メインアリーナのショウケースを届けてくれた「RUSHCRUISE」がジャック。
随所から駆けつけたドラァグクイーンやゴーゴーボーイが代わるがわるステージ上で踊り明かし、来場者との距離感の近さも相まって、見せるだけのショウではなく、みんなで一緒に盛り上がることの楽しさを届けてくれた。

他には、9monstersによる恒例のマッチング企画がバージョンアップして登場した。
会場に足を運んだ人たちをスクリーンに映し出し、そこから新たな出会いのチャンスを提供。筆者も映し出されたのは恥ずかしかったけど、大人の恥ずかしいは基本的に楽しくて気持ちのいいこと。クラブには“出会い”も不可欠。この日ばかりは思う存分、会う人会う人と酒を交わしながら、朝までアゲハでのひとときを堪能した。

ーー普段のクラブなら好きな音のジャンルやテーマ、好みの男性タイプで分かれるのだが、アゲハではこうしていろんな趣向の人が一堂に会する。だからこそ面白く、美男子〜ガチムチ&ベア系男子が一緒に混ざって、お互いの良さを分かち合い、同じゲイとしての一体感が生まれる。

「大人の夜のWONDERLAND」は、ここだけでは書き伝えられない感動が詰まっていた。
一瞬でも、「クラブって素敵な場所だな」「ゲイに生まれてよかった」そんな体現ができたなら、アゲハでのゲイナイトは歴史に残り、輝ける未来へのスタートの日として記憶に残っていくことだろうーー。

GLITTER BALL / Shangri-Laのプロモーター・吉田利信氏と、音楽の旅を一緒に築き上げてきたDJたち。ageHa / Studio Coastのメインアリーナにて。
ゴーゴーボーイのコスチュームを担当するHIDE3が作った最後のスタッフTシャツ。フロントには長年の敬意を表し、#thanks.yoshida-sanとプリントされた。

◆ GLITTER BALL
Twitter@Shangri_La_agH

取材・文/村上ひろし
編集・校正/みさおはるき
写真/EISUKE、UTO、SHINYA、CHUM、TOSHI(GLITTER BALL提供)
協力/ageHa / Studio Coast、吉田利信、GX3、RUSHCRUISE
SPECIAL HUG THANKS/関係者のみなさま、出演者のみなさま、来場者のみなさま
記事掲載/newTOKYO

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