
2025年7月20日(日)の第27回参院選投票日を前に、あからさまに社会的マイノリティへの差別や分断を煽る言動が強まっている。セクシュアルマイノリティ当事者やアライに対して、同性婚法制化反対やトランスジェンダー当事者の尊厳を平気で踏みにじるSNSアカウントも多く目にする。今以上に差別と分断を煽る者、それを支持する者が増えれば、個人が幸せを追求する権利がますます脅かされることになるだろう。
社会によって自由、そして命を奪われてきたセクシュアルマイノリティ当事者が懸命に生きた、そして生きている姿を記録したドキュメンタリー映画5作を通して、1人の命について考えてもらいたい。国籍や年齢、性別、性的指向など関係なく、あらゆる人が自分らしく生きていけるように。
◆「ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 空と木の実の9年間」(2020年公開)Vimeoにて配信中
イントロダクション/女性として生まれたが、自分の性に違和感を持ち続けていた小林空雅さんは13歳のとき、「性同一性障害(GID)」と診断された後、20歳で性別適合手術を受け、戸籍も男性に変えた。
世界最高齢で男性から女性へと性別を変更した95歳のチェリスト・八代みゆきさんや、Xジェンダーであると話す中島潤さんとの出会いもありながら、9年間の変化と成長を描いたドキュメンタリーだ。 性の違和に苦しみ、それでも自分らしく生きる人々の姿を収めた本作は、性別に限らず誰もが生きやすい社会に近づくための気付きを与えくれる。
◆「リトル・ガール」(2021年公開) Amazon Prime Videoほか、動画配信プラットフォームで配信中
イントロダクション/フランス北部、エーヌ県に住む少女・サシャ。出生時、彼女に割り当てられた性別は“男性”だったが、2歳を過ぎた頃から自分は女の子であると訴えてきた。母・カリーヌは「女の子にはなれない」という言葉を突きつけてしまうものの、彼女のある姿を目にしたことで娘として受け入れる。
7歳になったサシャは学校へ通い始めるものの、「女の子として認めない」学校の対応に影響されたクラスメイトの中にも彼女を拒む子どもが現れはじめる。家族が直面する多くの課題、そして喜びの瞬間を捉えた、幼少期のトランス・アイデンティティに対する認知と受容を喚起する貴重な作品である。
◆「チェチェンへようこそーゲイの粛清ー」(2022年公開) MadeGoodで配信中
イントロダクション/ロシア支配下のチェチェン共和国では、正義の名のもとで国家主導の”ゲイ狩り”が横行している。同性愛者たちは国家警察や自身の家族から拷問を受け、殺害され、社会から抹消されている。それでも決死の国外脱出を試みる彼らと、救出に奔走する活動家たち。
ときおり挟み込まれる実際の映像には、車から引きずり出した娘を家族が路上で嬲り殺しにする姿や、突然街中で拉致される者、ゲイカップルを取り囲み殴りながら尋問する姿、集団にあざ笑われてレイプをされる男性など、生々しい現実が映し出されている。なお、本作では被害者の命を守るため、フェイスダブル技術を駆使し身元を特定不能にしている。
◆「ナチ刑法175条」(2024年公開) 7/18時点で動画配信サービス等による配信はありません(当社調)
イントロダクション/ドイツでかつて施行されていた同性愛者を差別する「刑法175条」により、特にナチ支配下で男性同性愛者が弾圧されていた事実を、6人のゲイと1人のレズビアンによる証言を通して描いたドキュメンタリー。
刑法175条により捕まったのは約10万人。そのうち、1万〜1,5万人が強制収容所に送られた。強制労働や医学実験など非人道的な扱いを受けた人の中には、去勢された者もいた。その後、確認できた生存者はおよそ4000人、本作製作時に生存が確認出来たのはわずか10名に満たなかったという。同性愛者差別の歴史を語るうえで重要な証言が詰まった一作だ。
◆「出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び」(2021年公開) 2025年7月19日(土曜)13時30分より、品川区ジェンダー平等推進センターにて上映決定
イントロダクション/かつて同性愛が犯罪とみなされていた中国では、同性愛者への偏見が根強く残っている。そんな過酷な社会の中でも、親に自分のありのままを受け入れてもらいたいと奮闘するゲイの谷超(グーチャオ)さんとレズビアンの安安(アンアン)さん。
19歳のときに母親へカミングアウトし拒絶された安安さんは、32歳となり再び理解を求めようとするが「娘が同性愛者なんて面子が立たない」と変わらぬ姿勢を見せるーー。本作では、子を愛する気持ちから周囲の目を気にする親のリアルな心情が描かれている。社会の圧力により、親の愛情がどのように歪曲してしまうのかにも注目してほしい。
ーー今回紹介した作品はフィクションではなく、この世界で実際に起きたことだ。そして今、国内で起きている分断と差別を煽る流れに通ずる部分は、ティザー映像だけでも多く見られたことだろう。
想像力を働かせることなく、自らを取り巻く環境や誰かを否定して生きることはあまりにも簡単だ。しかし、それは犠牲のうえに成り立つ社会を形成する一助になることを忘れてはいけない。
改めて、第27回参院選投票日は2025年7月20日(日)。誰もが自分らしく生きられる、そして誰かの尊厳を踏みにじり差別をしなくては生きていけない社会へと向かわぬよう、1人でも多くの人が選挙へ参加することを願っている。
記事制作/newTOKYO