MC(ラップ)、DJ、ブレイクダンス、グラフィティなどといった要素からなる文化の総称、ヒップホップ。1970年代アメリカのストリートから生まれた文化は、世界で広く認知され受け入れられている。
一方で、自由度が高く「表現」と「ヘイト」の境界線が曖昧であることから国内外の有名アーティストによる差別発言が、度々問題視されているのも現状だ。LGBTQコミュニティに対しても、例外ではない。
そんな現状にツイッターで声を上げ瞬く間に拡散されたのは、ラッパーとしての成功を夢見て音楽活動をする17歳の高校生・REINOさん。顔も名前も知らない第三者からの様々な反応が予想される中、バイセクシュアルであることをオープンにした上で、ヒップホップシーンへの想いを発信した彼の心の内を伺った。
表現の自由とヘイトの境界線を決めるのはリスナー自身。違うと思ったらNOと声を上げられるコミュニティに
ーー音楽活動をしてみようと思ったきっかけと、REINOさんの目には日本のヒップホップシーンはどのように映っていますか?
小学生の時から音楽が好きで聴いていましたが、ヒップホップに没入し始めたのは中学入学間近の頃。口にするとただの悪口になってしまうことであったり、発言しにくかったりする言葉を音楽に落とし込み、リリックとして昇華するラップに魅力を感じて、ラッパーを志すことにしました。
ただ、活動を通してヒップホップカルチャーへの理解を深めていくうちに、「表現」と「ヘイト」の境界線が曖昧であると感じ始めて。表現という枠を超えてヘイト寄りなラインもカッコいいと思われてしまう風潮もまだまだ残っているし、日本のシーンに置いても、同性愛嫌悪(ホモフォビア)を助長する内容を含んだ楽曲をリリースしてしまう著名なラッパーがいるのが現状、問題としてあります。
ーー同性愛嫌悪表現に対してはっきりとNOの声を上げられた理由は何だったのでしょうか?
背景としては今年の夏、米国のとあるアーティストがパフォーマンス中に「HIVやAIDS、2~3週間で死んでしまうような致命的な性感染症にかかっていなければ、スマホのライトをかざせ!」とHIVやAIDSに関する誤った解釈を助長しかねない同性愛嫌悪発言が問題になったことが挙げられます。
その後、この一件に対してリスナーやセレブたちが強く糾弾し、結果的に彼は謝罪を余儀なくされる事態に追い込まれることになりました。このようなキャンセル・カルチャー(著名人による差別的な言動を糾弾し、不買運動や広告・番組の打ち切りなどを求める社会運動のこと)自体の良し悪しは置いといて、例え大好きなアーティストだったとしてもダメなことをしたら抗議の声を上げる文化が日本でも成熟すればいいなと思い、発信をしました。
ーー同時にバイセクシュアルであることも公言していましたが、周囲からの反応は怖くありませんでしたか?
セクシュアリティを明かさないほうがよかったという後悔もありませんし、第三者からのネガティブな反応もさほど気にしないようにしています。ただ、熱心なヒップホップリスナーから中傷コメントが送られてくる中、LGBTQの権利や同じような気持ちで日本のヒップホップシーンの改善を求めている人がいたのも事実。100パーセント傷ついていないと言ったら嘘になりますが、話題性を集められてチャンスだと考えるようにしてました。
人は外見や学歴、職業、性別、セクシュアリティ、生い立ちなど他者にジャッジされる要素をたくさん持ち合わせていますが、それだけでジャッジするような人の言葉に頭を悩ませる時間があるなら、自分のことを大切にしてくれる友人や家族に対して時間を割きたいという気持ちが強いです。
もし、普通の会社員として生きていくことを決めていたら、セクシュアリティを明かさずに発信をする選択が無難だったかもしれませんが、僕はラッパーとしてセクシュアルマイノリティや貧困など当事者性が強いテーマでものづくりをして生きていくと決めているので。
音楽って自己主張で心の内側から出てくるものじゃないと意味がないし、アウトプットする上でもそういった立場を表明していないと伝えたいメッセージが届かないのかなって思っています。
ーー今後、音楽活動を続けていく上で大切にしていきたい気持ちや夢はありますか?
成功した海外のヒップホップアーティストに目を向けると、地元や自身が属するコミュニティに寄付や、関心のある社会問題の解決を目的とした基金の設立などに積極的なので、もし音楽の道で食べていけるようになったらLGBTQコミュニティや貧困といった問題解決に還元していきたいです。
母にも「クィアアーティストとして生きていくのは大変なこと。思想を発信する立場になれば当然、それをよく思わない人たちからのヘイトはあるだろうし、それに絶えきれなくなって途中で止めるのはいいけど、後悔しそうなら今のうちにやめておきなさい」と解釈によっては、背中を押してくれるような言葉もかけてもらえたましたし(笑)。
応援してくれる方たちを大切にしながら音楽を作り続けていきたいし、偏った思想にならないように冷静に時代を読みつつ、クールに生きていきたいです。
◆ REINO
愛知県在住の高校生ラッパー。YouTubeや各種音楽配信サービスにて楽曲をリリースしているほか、ドキュメンタリー映画『これは君の闘争だ』の応援コメンテーターとして、小説家・カツセマサヒコらと並んでコメント寄稿するなど注目を集めている。
Twitter@reinorealmusic
YouTube@REINO
写真・インタビュー/芳賀たかし
記事制作/newTOKYO