男を好きな男だけど、女として男が好き!?小野雄治郎から、たけうち亜美へ。トランスジェンダーの“はじめて”を広げていきたい。

現在、オネエタレントとしてバラエティ番組やグラビア、ドラマなどで活動する、たけうち亜美。小野雄治郎として過ごしていた学生時代には僅かな性の違和感を抱え、自身がMTFだと気が付いたのは16歳の時だった。そんな彼女の幼少期から学生時代、そして性転換を終えてから今に至るまでの道のりをうかがった。

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***男を好きな男だけど、女として男が好き!?
MTFだと気がついた学生時代

小学校低学年の頃、男子の間ではミニ四駆が流行っていたんですよ。親からも、誕生日のプレゼントには最新のミニ四駆をもらっていました。でも、私はリカちゃん人形が欲しかったんですよね。
そのことを親に話すと、親は少し寂しい顔をしたように感じたんです。本当は赤いランドセルも欲しかったけど、子供ながらに、親を悲しませてしまうことはしたくないって思ってそれ以上言うことはありませんでした。その時はただ単に自分が欲しいものが他の人とは違うんだなって思っていたくらいだったんです。ですが、妹が生まれたことで、かわいいプレゼントがたくさん家にはある状態で物欲が満たされていったので、大きな違和感には繋がらず楽しく過ごしていました。

自分が男性を好きなんだと気が付いたのは、中学生になってからです。その頃になると恋の話になりますよね。私も、いろんな人に憧れたりしていました。中学校に上がって、部活動で剣道を始めたんですけど、それもかっこいい先輩が部活にいたからっていう安易な理由でした(笑)。
自分が男性を好きだということで悩んだことはなかったのですが、あえて誰かに言うとかはしていませんでした。少しなよなよしていて、仲良くしていたのが女子だったのですが、片思いしていた男子を親友の女の子が好きになってしまった時は、とても辛かったですね。結局、親友の女の子を応援して勝手に失恋していたこともありました。

そういった恋愛は誰にでもありえることかなと思うのですが、学生生活で一番苦痛だったのは修学旅行でのお風呂の時間ですね。男性のことが好きだったんですが、男性に裸を見られることが、とても嫌だったんですよね。その時はその理由を深く考えられていなかったんですけど、今思い返すと胸がなかったり、イチモツが付いていたりすることを見られるのがとても辛かったんだと思います。

そんな中学校生活を終える頃には、ネットで知り合ったゲイの友人も何人かいました。よく遊んでいて楽しかったのですが、なんとなく彼らの価値観と違う点に気がつくようになったのです。
そのことを伝えると、「あんたは女なのよ」って言われて、すぐに私は納得しました。男を好きな男だから、ゲイなのではなく、男を好きな男だけど、女として男が好き。わたしはMTFだったんです。

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***思い立ったら吉日!
20歳までに女性になると決めてすぐ行動

自分がMTFだと気が付いたのは16歳の頃でした。気がついてから、私はすぐに目標を決めました。
それは、20歳までに女性になるということ。女性になるのはできるだけ早い方がいいと直感でそう思ったんです。
ただ、手術の費用を貯めなくてはいけなかったので、アルバイトをすることにしました。そこで、ニューハーフのショーパブへ行き、面接をしてもらい働かせていただくことになりました。昼は高校生、夜はショーパブで働く生活をしていたのですが、やはり高校との両立は難しく、一年生の途中で中退し夜の世界に専念することにしました。
諸先輩から女性になる方法や所作を教えていただいたり、とても勉強になることが多かったです。プライベートでも女性として男性とデートしたりと、この頃から女性を満喫していたのかなと思います。男性に女性として扱われることに、とても幸せを感じていました。

貯金も順調に貯まり、18歳になる頃には、女性ホルモンの投与、豊胸、睾丸摘出の手術を受けていました。19歳になると性別適合手術を受け、20歳の成人式には女性の体で、振袖を着て参加することができました。目標通り、20歳から女性としての人生をスタートをしはじめました。

ですが、女性といっても変えたのは体だけでいまだに戸籍は変えていないんですよね。なんでかと言うと、面白いから(笑)。小野雄治郎っていう名前に愛着もあるし。今のところ、戸籍や名前を変える必要性がある場面にあまり出会っていないんですよね。ただ、ものすごく体調が悪くなって病院に行った時、「小野雄治郎さん~」って呼ばれたりすると、ハッとすることはありますね(笑)。私も、周りの患者さんも看護師さんも。

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***お兄ちゃんからお姉ちゃんに。
素直に受け入れてくれた家族とカミングアウト

夜の世界で働いている時に、お店から実家に連絡が入ったのがきっかけで、ニューハーフとして働いていることがバレ、しぶしぶカミングアウトしたのですが、反応はあっさりしたものでした。自分自身、セクシュアリティに悩むことが少なかったので、親もそうだったのかもしれませんね。

妹は少し年が離れているのですが、妹が小学校を卒業する時に、クラスの文集みたいのがあったので読んでみたんです。テーマは「人生で一番びっくりしたこと」。妹のページを探すとそこには「お兄ちゃんがお姉ちゃんになったこと」って書いてありました。「そりゃそうだよね」って、単純に思いました(笑)。しばらくは慣れと戸惑いからか「おにぃ…お姉ちゃん!」って言い間違えていましたが、今ではすっかり受け入れてくれています。

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***ナプキンにブラジャー!?
些細な出来事が嬉しいと思える瞬間

性転換手術を受けてしばらくの間、股から血が出ている状態の時に、お医者さんにナプキンをつけるように言われたんですよね。それでナプキンを買いに行った時、「あ、これってすごく女子っぽい!」って思って、今でもその時の嬉しさは覚えています。サイズや形なんかを選んだり、紙袋に入れてくれたりするのがとっても新鮮でした。他にも温泉やトイレに女性として入れることや、股間のふくらみを気にしないで好きな服を着れたりとか、こういう小さなことが思いがけないところでたくさんあって、少しずつ女性として実感していったように思います。
あと、実は女性の性器を見たことがなかったのでどの形が正解かってのが分からなかったんですよ。なので、お母さんと見せっこをして比べたりしてました(笑)。お母さんは「まだ腫れてるね~」って言ってました。

女性になってから大きな転機になったことは、今から10年前に「Miss International Queenコンテスト」というタイで行われるニューハーフの世界大会があるんですけど、私の存在を知ってくださっていたタイで働く日本人の方から出ないかとお話をいただき、旅行気分でタイに行ったんです。ですが、行ったら行ったであれよこれよと大会の準備が始まり、気がつけば審査が始まっていました(笑)。結果は、周りの皆さんの手助けもあり、準ミスとミスフォトジェニック賞をいただきくことができました。世界中の綺麗なニューハーフの方たちと過ごした日々は、今思えば本当に凄い出来事でいい刺激だったし、今後一生思い出すであろう青春の1ページですね。

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***トランスジェンダーを逆手に!!
自分の生き方がロールモデルになれたら

昔からテレビっ子だったんです。ドラマやバラエティや歌番組なんかをよく観ていて、いつかテレビに出たいって思うようになっていたんです。
中学三年生の頃にその思いをお父さんに相談して、芸能事務所に入ることができたんです。その時、「キッズ・ウォー」に出演させていただいたんですけど、その役どころはヤンキーでとてもイカつくて、テレビに出れた嬉しさとは別になんだか複雑な気持ちがあったんですよね。
その時から、女性としてテレビに出たいという思いがどこかにあったんだと思います。それからしばらくして18歳の時に、あるプロデューサーさんから声をかけていただいてまたドラマに出演させていただくことがあったんです。「私が私であるために」という日本テレビ系列ドラマで、性同一性障害をテーマに扱った作品でした。いただいた役はMTF当事者で、この時はじめて私らしい姿でメディアに出演することができたと思っています。それからはニューハーフとして、芸能のお仕事をたくさんいただくようになりました。
上京して「カマちゃん俱楽部」というアイドルグループで活動をしたり、MTFでは初のグラビアアイドルをさせていただいたり…。

今、いろんなジャンルの仕事をさせていただいていているのですが、今までトランスジェンダーができなかったことやしてこなかったことをもっともっとしたいなって思っているんです。まだ誰もしたことがないことをすることで、「あぁ、私も目指していいんだ」「こういう道もあるんだ」って、感じてほしい。
私が10代の頃は、まだロールモデルが今ほどは多くなくて、どこを目指していいのか分からないことがたくさんあったんです。だから私がそういう人たちが挑戦できるような道をたくさん拓いていきたい。わたしが今、自分らしいって思える活動はそういうところだと思っています。

仕事以外の面では、女性として「結婚」もしたいです。戸籍を変えてほしいって言われて、素直に「はい」って思える相手が出来たら、その時に戸籍を変えようかなって思っています。女性として結婚をすることで、仕事と同じように、「こういう幸せを手に入れることができるんだ」って、知ってもらうきっかけになれたら嬉しいですよね。それにはまず、相手を探さないといけないんですけどね(笑)。

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たけうち亜美(小野雄治郎)
19歳で性転換をし女性になる。オネエタレント、オネエグラビアアイドルとしてバラエティ、モデル、女優として活動中。2010年 Miss International Queenコンテスト 準ミスグランプリ、ミスフォトジェニック賞受賞。Twitter@ami1106usagi

取材・撮影/新井雄大 Twitter@you591105

※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp