【アムステルダムって、どこ? #08】それぞれのアプローチで、アムスの未来をもっと生きやすく。LGBTQ+コミュニティへ貢献する4団体!

アムステルダムの映画団体のIQMF

アムステルダムでの現地取材をもとに、LGBTQ+にまつわるアレコレを紹介する不定期連載企画「アムステルダムって、どこ?」。ちなみに、アムステルダムは世界で初めて同性婚が合法化されたオランダの首都なので、覚えておいて損はないよ。

最後となる第8回目は、アムステルダムを拠点としてLGBTQ+コミュニティへ貢献する人々をご紹介。トランスジェンダーに向けたヘルプラインを運営する団体をはじめ、キャナルパレードの研究、映画やアートを通してLGBTQ +を知る機会の創出など、それぞれの団体がより生きやすいアムスの実現へ向けて取り組んでいる。

オランダ・トランスジェンダー・ネットワークのメンバー
「オランダ・トランスジェンダー・ネットワーク」のメンバー。左からリスさん、フレアさん、ノラさん

ーー生きていて楽しいと思える社会へ。異なるアプローチでLGBTQ+コミュニティのために活動する人々の想い。

性別に捉われない社会の実現を目指す「オランダ・トランスジェンダー・ネットワーク」は、2008年に地元のアクティビストによって立ち上げられた非政府組織。日本で言う厚生労働省のような組織やEU、寄付を財源としてトランスジェンダーとその周囲の人々のために全国的に活動している。

活動の中で軸となっているのが、ジェンダートークユースライン。主に12歳から25歳のトランスジェンダーやノンバイナリー 、クエスチョニングの人々を対象としたヘルプラインで、自分が置かれた環境では解決できないそうにない問題に悩まされている若者のために用意されたものだ。プライドイベントに積極的ではない、あるいはSNSでの繋がりが無く独りで悩みを抱えたままの対象者からのSOSに、訓練を受けた経験豊富なボランティアスタッフ約25名が電話対応をしている。

オランダ・トランスジェンダー・ネットワークのフレア
ジェンダートークユースラインのコーディネーターとして働くフレアさん

具体的にどのような悩みを抱えた連絡が来るのか尋ると、「自殺に関連する電話は、週一回の頻度であります。その多くが18歳以下で、自身でコミュニティを探すことが困難がゆえ孤立してしまった人たち。彼ら彼女らが“自殺”という考えに至るまで、自己否定に陥ってしまう原因は何なのか。それは外的な批判が大きく影響していると考えています。電話越しで悩みを打ち明けてくれた人々が自己を肯定して生きられるようになるためには、やはり周りの環境が変わらなければいけません」。

続けて「しかし現状を見てみると、どうでしょう。トランスジェンダーの自殺率はシスジェンダーの自殺率に比べておよそ6〜10倍、うつ病は3倍、言葉による暴力は2倍という高い数値を示しています。その他にも、ホームレスになる傾向や非正規雇用率が高く、差別を根底とした問題に直面しています。現に保守派の富裕層がトランスジェンダー関連のドメインを購入して反トランスジェンダーのPRに用いるなど、あからさまな差別もまかり通ったまま。こうしたデータをまとめたパンフレットを制作・配布することで悩みを抱えている人たちの周囲の環境が変わるきっかけをつくることも、私たちの大切な仕事の一つです」と、直面する問題に対してどう向き合っているのかを話してくれた。

アムステルダムのキャナルパレードを研究するイリーネ
イリーネ・セーレンさん

プライドアムステルダムのメインイベント「キャナルパレード」について研究を行っているイリーネさんは、パレード運営にまつわる問題点を様々な観点から提起。「キャナルパレードは今や、アムステルダムを代表するイベント。世界的に見ても大きなプラットフォームとして認知されていますが、各国メディアへの情報発信やリアルタイム配信プラットフォームを活用したオンラインでの宣伝活動ができていません。クィアコミュニティが声を上げている現実を、より世界に発信していく必要があると感じています」と、オフラインに留まらない情報の有効活用を求めた。

運営組織そのものについても「クィアコミュニティとともに変わり続けるべきですが、組織は白人のシスジェンダー男性ばかりでダイバーシティとは言い難い。本来であればクィアコミュニティの人々が運営方針を決めるべきです」と、オランダ社会に残る覇権的男性性がプライドアムステルダムの組織にも反映されている現状を指摘した。

アムステルダムのキャナルパレードを研究するイリーネ

そういった形態はプライドアムステルダムが商業化に傾倒する要因にもつながり兼ねない。インカムを重視して非倫理的なスポンサーの参加を許すことになれば、これまで積み上げてきた世界からの評価も下がる。倫理的な企業をスポンサーにつけているか注視する必要性がありそうだ。

最後にイリーナさんは、「セレブレーションとしてキャナルパレードの知名度が上がるほど、シスヘテロの人々が訪れる割合が増えるのは事実。それによりコミュニティのセーフスペースとしての機能が脅かされ、クィアの人たちが遠のく可能性もある一方、パフォーマンスを見た人々へLGBTQ+についてディベートする機会を与え、“普通”と呼ばれる社会との垣根を無くすことに貢献する場合もある。いずれにせよ、よりフレキシブルな体制でクィアコミュニティと共に作り上げるべき」と、メリットとデメリットの両面が複雑に絡み合ったキャナルパレードの運営構造に対する改善点を教えてくれた。

アムステルダムの映画団体のIQMFのメンバー
Stichting art.1のメンバー。中央がクリスさん。

続いて出会ったStichting art.1は、2015年に設立されたインターナショナル・クィア・アンド・マイグラント・フィルムフェスティバル(IQMF)を運営する組織。クィア&移民関連映画のための年次文化的ランドマークであり、アムステルダムとオランダの他地域で多くの観客にクィア&マイグラント映画を紹介している。

その他にもアート展示、ワークショップ、トーク、国際的才能プログラムIQMFアカデミーなど、多様で包括的な社会に貢献する複合的コミュニティスペースとしての役割も担っており、活動の一環としてオープンさせた映画館「Supernova」では、アムステルダムの観客に対してクィア、政治、気候変動、脱植民地主義などの声を届けるための活動を行っている。

IQMFのクリスの背中

メンバーのクリスさんは「オランダ国内では移民のバックグラウンドがある人々に向けたプラットフォームに力を入れています。僕自身インドネシアのルーツが入っているんだけど、メインストリームのメディアを目にすると白人主体のものばかり。疎外感からか自分を投影して作品を観ることができないんだ」と、自らが活動を続ける理由を教えてくれた。

その他にも各国のオランダ大使館と協力し、ポッドキャストでのストーリーテーリングやワークショップなどを通して知識を共有することで、アマチュアの映画制作陣の手助けを行うなどアートで世の中が変わるきっかけを生み出し続けている。

アムステルダムのダッチカルチャー
Dutch Cultureメンバー。左からイアンさん、リックさん

今回のビジタープログラムをコーディネートしてくれたダッチカルチャーは、国際協力のためのネットワークと知識を持った組織で、伝統や芸術、文化の促進と支援を行っている。目的に応じて各国の大使館と連携しながらオランダ視察者の選定や滞在中のプログラムづくり、そして視察同行などを通して現地で活動する組織との交流の機会を創り出している。メンバーのイアンさんとリックさんは、どのような志を持って働いているのだろう。

イアンさん:「主にアート関連のプログラムを担当しているのですが、オランダ含めヨーロッパではアーティストが政策に関わる人にコンタクトを取ることがとても難しいんです。そういった現状を改善するためにダッチカルチャーの活動を通して政治家とアーティストを繋げ、アートの地位向上に貢献したいと考えています。それを実現するためには色々な分野のカルチャーがミックスされたダッチカルチャーは、とても魅力的で面白い組織です。それにトップダウンのような風潮を感じる機会が少なく、自由にプログラムをつくることができる。トップダウンな体制が苦手な私に、ぴったりの場所でもあるんですよ(笑)」。

アムステルダムの団体のダッチカルチャー

リックさん:「皆の人権が守られる平等な社会の実現のために、ダッチカルチャーに所属しています。中でも私の場合はLGBTQ+に関するプログラムに取り組むことが多く、クィアコミュニティの一員としてのネットワークを活かしてアンダーグラウンドな組織の人々のキャスティングも行います。時にはLGBTQ+とは関係のないイベントを主催することもありますが、プログラムを組むときは必ず人権にまつわる要素を取り入れています。私の活動は「【アムステルダムって、どこ? #03】で詳しく話しているから、是非チェックしてみて」。

ーー自分、そして自分が属するコミュニティの未来のために直面する問題解決に取り組む姿は、真剣な眼差しと生き生きとした表情が印象的だった。

さて、世界で初めて同性婚法制化がされたオランダの首都・アムステルダムでの取材をもとに、全8回に渡ってお送りした連載企画「アムステルダムって、どこ?」。LGBTQ+コミュニティの人たちの活動や暮らしぶりから、ポジティブなメッセージを届けられていたら幸いだ。

そしてプライドウィーク期間中、オランダ・アムステルダムを訪れる機会があれば、それぞれが受け取ったメッセージを心に留めつつ、ありのままの自分でいることを楽しんでほしい。

アムステルダムのレインボーフラッグ

取材・文/芳賀たかし
写真/EISUKE
通訳/桑原果林(ソウ・コミュニケーションズ)
協力/駐日オランダ王国大使館、ダッチ・カルチャー
記事制作/newTOKYO

※本取材は駐日オランダ王国大使館が実施するビジタープログラムの一環として行いました。