アムステルダムでの現地取材をもとに、LGBTQ+にまつわるアレコレを紹介する不定期連載企画「アムステルダムって、どこ?」。ちなみに、アムステルダムは世界で初めて同性婚が合法化されたオランダの首都なので、覚えておいて損はないよ。
第5回目はアムステルダム市西側に位置する、ニーウ=ウェストで開催されたプライドイベント「Polderheuvel Pride(ポルダーフーヴェルプライド)」へ来場していたドゥーネさんとフェローザさんに、家族や娘・ナジーラちゃんの子育てについて話を聞いた。
ーー娘のナジーラには誰に対しても敬意を払い、受け入れる子に育ってほしい。
ーー急なインタビューにも関わらず、ご協力いただきありがとうございます(突撃インタビューをしました!)。早速ですが、簡単に自己紹介をお願いします。
ドゥーネ:全然いいのよ、気にしないで。それじゃ…私の名前はドゥーネです。インドネシア人の母とトルコ人の父のもとアムステルダムで生まれて、今年41歳になります。
フェローザ:私の名前はフェローザ、出身はアムステルダムのインディス地域(多文化が交わる埠頭エリア)で、今年39歳になります。歌を仕事にしているわ。
ナジーラ:私の名前はナジーラ。9歳で、7学年上のお姉ちゃんがいます。趣味は絵を描くことだったんだけど、スマホを買ってもらってからは、全然描く気がなくなっちゃったの…(笑)。
ーーありがとうございます。ドゥーネさんとフェローザさんが一緒になったきっかけは、どのようなものだったのかお聞かせいただけないでしょうか?
フェローザ:ドゥーネとは四年前の10月21日、黒人系の人たちが集まるカフェで出会いました。その時は恋人と別れたばかりだったんだけど、彼女を見かけて一瞬で恋に落ちてしまったの。出会った時はいろいろクリアしないといけない困難があったんだけど、今ではそれを乗り越えて同じ時間を過ごせていることが幸せなんです。
ドゥーネ:フェローザが言った困難のひとつとして、私は彼女と出会った当時、大切な友人を亡くしてしまったばかりだったの。LGBTQ+コミュニティの人だったんだけど、生きるのが辛くなりオーバードーズ(薬物の過剰摂取)で命を断つ選択をしてしまったんです。
しばらく気持ちが沈んだままだったのですが、出会ってから今までフェローザがずっとそばにいてくれたおかげで立ち直ることができたし、この瞬間があると思っているから、とても感謝してるの。
ーーお二人はパートナーシップ制度を結んでいるとお聞きしましたが、オランダの同性カップルは結婚という形をどのように捉えていると思いますか?
フェローザ:どうだろう? 本当に人それぞれだと思うけど、例えば「結婚するなんてヘテロカルチャーに迎合しているみたい」と言って結婚を選択しない人たちもいれば、シンボリックな意味合いで結婚をするふうふもいる。もちろん、税金が控除されるから、どうせなら結婚をしようという人もいるよ。
いずれにせよ、自分たちがどうありたいかを話し合った上、ライフスタイルに沿った選択をしているという感じかな。それに一番大切なことはどのような形かじゃなくて、2人が選んだ関係性の中で本当の愛を育むことができるか否かだと思うの。それさえできれば、どんな形であれ何でも乗り越えられるはずよ。
それと補足として性的指向に関わらず手続きが簡易的だという観点から、結婚ではなくパートナーシップという関係性を選択する人もいるわ。
ドゥーネ:誰もが平等な権利を持つべきだというクィアコミュニティの強い思いで勝ち取った「結婚」という権利だけど、それを行使するか否かは本人たちの選択次第。選択ができるということも含め、平等な権利があるのはいいことですよね。一方、日本でそのような決定権がまだないことは、とても残念に思います。
オランダのように同性婚を望む人がいるのはすごい理解できるし、オランダもそういう時期を経て今があるから、強い思いを持ち続けてほしいです。
以前はオランダでも、同性カップルが養子を迎え入れることが難しかったり、女性同士の結婚でどちらかの子どもがいる場合、その子どもを産んだ実母は育休制度を行使できるけれどパートナーは育休制度を使えないなど、不十分さが指摘されていましたが、最近になって少しずつ整備されつつあります。
ーー娘・ナジーラちゃんをプライドパレードへ連れてきたのには、何か思いがあったのでしょうか?
ドゥーネ:オープンマインドな人へ成長してもらうためには、安全な場所で質の高い教育を受けることは必要不可欠。今回はその一環として、ここへ一緒に来てみたの。前にナジーラから「トランスジェンダーって、何?」と質問されたことがあって、そういう質問に対して私たちは説明をする義務があると思うんです。
フェローザ:子どもって無邪気だから、目の前にあるものに対して「気持ち悪い」「怖い」といった素直なリアクションをするでしょ。
そのこと自体を責めることはできないわ。でも、その対象が例えばLGBTQ+当事者だったとしたら…いくら子どもとは言え、やっぱり傷つきますよね。ナジーラには、いろんな人がいて当たり前ということを早いうちから目で見て感じ取って欲しかったの。
ーー素敵なお考えだと思います。ナジーラちゃんは、実際プライドパレードに来てみてどうだった?
ナジーラ:う〜ん…ちょっとつまんなくて、ちょっと楽しいかな(笑)。
ドゥーネ:ははは(笑)。自分の母親たちがどのような人たちなのか、少しでも伝わっていたら嬉しいけどね(笑)。誰に対しても敬意を持ち、受け入れられるような人になってくれたら嬉しい。
どんな文化でも宗教でもセクシュアリティでも「全然良いんだよ」と子どもが学べること、学べる場所があるって本当に大切なことだから、来てみて良い経験になったと思うわ。
ーーPolderheuvel Pride主催者が目指すのは「全世界でLGBTQ+権利が守られること」
今年初めて開催された「Polderheuvel Pride」では、遊び場とともにフルーツやスイーツ、レモネード、コーヒーなどが無料提供されるほか、フェイスペイントやゲイコーラスによるステージなども行われた。会場の周辺地域は比較的収入が低い保守派のイスラム系家庭が多いそうで、彼らとの接点を創出することも目的の一つ。
主催者は「両親がLGBTQ+当事者で子どもを連れて来ていることもあるし、子ども自身が当事者ということで意識的に来ている家族の姿も見えたわ。たまたま通りかかって寄っていく家族もいたから、いろいろな人たちがミックスされている感じ」と、賑わう会場を眺めて満足気だ。
最後に、目指す社会の形について伺うと「全世界でLGBTQ+権利が守られ、皆が平等に扱われる社会を目指して活動しているけれど、残念ながら私が生きているうちには実現しないでしょう。ただ、私たちはトライし続けることに意味があると思っている」と、LGBTQ+の権利向上に向けて前向きなコメントを添えてくれた。
■アムステルダムって、どこ? #05
取材・文/芳賀たかし
写真/EISUKE
通訳/桑原果林(ソウ・コミュニケーションズ)
協力/駐日オランダ王国大使館、ダッチ・カルチャー
記事制作/newTOKYO
※本取材は駐日オランダ王国大使館が実施するビジタープログラムの一環として行いました。