多様性を尊重する一方で垣間見える当事者の現実問題。ブラジル映画「私はヴァレンティナ」で考えるべきこと。

映画ライターのよしひろまさみちの映画レビュー

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映画をご紹介するコラム

「まくのうちぃシネマ」第31回目

今回は4月から公開が始まったトランスジェンダーの少女のお話。ブラジル映画の『私はヴァレンティナ』でーす。
ブラジルは欧米と同じく、LGBTQ+の人権に対して前向きで、同性婚もOK(とはいえ、現政権がかなりの保守派ということもあり、日々当事者を取り巻く状況は変わっている、とも聞きます)。

日本からするとブラジル=サンバの国、陽気なラテン国、というおおらかなイメージがあるけど(その一面はたしかにあるんだけど)、LGBTQ+を取り巻く環境に関しては実際はなかなか厳しいことも多々残っているんですね。

よしひろまさみちの「私はヴァレンティナ」の映画レビュー

特にトランスジェンダー。なんと中途退学してしまうティーンのトランスジェンダーは8割超、そして平均寿命が35歳……。
これって、要は学校生活における問題があるってことなのよね。偏見によるいじめや家庭環境の問題はもちろんだけど、ティーンの生きる狭い世界には、自分らしく生きようとする者への横やりがいっぱい。だから勉学をあきらめたり、命をたったり……(泣)。つらい。

この作品は、そんなティーンの現実を描いているの。MTFトランスジェンダーのヴァレンティナは引っ越した新天地で、ひょんなことからいじめや脅迫、暴力にあってしまうのね。いや、マジつらい。もちろんティーン当事者にも観てもらいたいけど、やっぱ大人も観るべき。というのも、今の日本でハッピーゲイライフを送っている大人にも、忘れたい子ども時代があったり、敢えて記憶から抹消したことってあると思うのね。

よしひろまさみちの「私はヴァレンティナ」の映画レビュー

それを乗り越えてサバイブしちゃったから、今のティーンのことなんて知ーらない、じゃ済まないじゃない。負って連鎖していくもんだから、どっかで断ち切らないと永遠に終わらないのよ。
自分らしく生きようとする人を支える上で、なにが正解でどこに問題があるか、ってのは、この作品を大人の目で観れば明快。なんなら、トランスジェンダーのことは分かんなーい、っていうトランス以外の人こそ、考えるべきことよ〜。

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私はヴァレンティナ
ストーリー/母と小さな町に越してきたヴァレンティナは、本名とジェンダーを伏せて学校に通っていた。だが、パーティで男に襲われたことをきっかけに、SNSを通じたいじめが始まってしまう……。

監督・脚本:カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス
出演:ティエッサ・ウィンバック、グタ・ストレッサー、ロムロ・ブラガ、ロナルド・ボナフロ、マリア・デ・マリア、ペドロ・ディニス ほか
2022年4月1日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
https://www.hark3.com/valentina/

文/よしひろまさみち Twitter@hannysroom
イラスト/野原くろ Twitter@nohara96


井上健斗のカルペディエム Vol.6/子どもたちに言ってあげたい言葉。

子ども時代、僕は女として生きるしか選択肢がなかった。こう言うととても悲観的な人生だったみたいに聞こえそうだが、今の僕の価値観は周りに強制的に押し付けられた”視点のズレ”を経験したからこそ、得られたものだと考えるなら、もしかしたら「僕」という人間を培うためには必要不可欠なものだったのかもしれない。 ーーきっと生まれ持った体と心の形が違っていた方々は、また別の経験をしてきたのだ… もっと読む »

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