私とアナタのための、エンパワ本 Vol.8 犬身/弱法師/きみはポラリス

主にセクシュアリティ・ジェンダーの分野で執筆をしながら、ダンサーとしても活動するレズビアン当事者の山﨑穂花さん。「わたしとアナタのための、エンパワ本」では毎月、彼女の本棚の中から、自信や安心、ありのままの尊さを教えてくれた本(=エンパワ本)を、“気付きの一文”を添えて3冊紹介。

第8回は、「揺れ動く三角関係、その間にある答え」をテーマに選書。

誰かを想うとき、その形はいつも一対一とは限らない。友情と愛情の境界線が滲み、3人の間で複雑に絡み合う感情。それは時に苦しいものですが、自分の本音と向き合うための大切なプロセスでもある。

今回は、女性同士の親密な関係性が描き出す「三角関係」にフォーカス。既存の型にはまらない愛の形を通して、自分の心に嘘をつかないための3つの物語をご紹介します。

犬身(朝日文庫)/発行年:2020年/著者:松浦理英子

同性である好きな女性・梓の犬になる話。犬の視点から描かれるのは、飼い主の女性を巡る歪んだ愛憎劇。飼い主、その崩壊した家族、そして「犬」として寄り添う房恵。この危うい三角関係の中で、彼女は言葉を超えた魂の交わりを模索する。「犬身(献身)」を捧げることで、人間としての役割を脱ぎ捨て、魂の純粋さを守り抜く。その過激で美しい愛の形は、既存の枠組みに苦しむ私たちの心を、静かに、そして力強く解放してくれる。

◆気づきの一文 
「梓が相手なら完全に犬になれる、朱尾に対しては犬になりきれず魂の人間の部分がうごめき出すということなんだろう、と仔犬は考えた」(上巻173頁16行目)

ーー理性を捨て、梓に全てを委ねたいと願うその姿は、とても動物的だ。と同時に、男性である朱尾に対しての感情は人間的である。梓になら完全に犬として純粋に甘えられるのは、恥じらいや理性を超えた先にある純粋な愛であり、人間としての役割から解放された剥き出しの愛でもある。

弱法師(文春文庫)/発行年:2007年/著者:中山可穂

中山可穂の短編集『弱法師』に収められた「浮舟」は、家族や性別の枠組みを超えた三角関係を描いた物語だ。物語は少女・碧生の視点で綴られる。薫子おばさんという父の姉は、宝塚の男役のような美人。体の弱い母にかわって家族の面倒を見るため、碧生が小学校に上がるまで同居していた。歳月を経て再会した薫子。母の死をきっかけに、薫子に潜む心の内が明らかになるーー。

◆気づきの一文 
「女が本気で女に惚れたら、引くもんだ」(273頁12行目)

ーー薫子の過去を知る父が放つ言葉。薫子は、自分の欲望を優先するのではなく、愛する女性の幸せのために、とある男に譲った。しかし、これは諦めではなく、自分がその女性に与えられないものを男性と結婚させることで補うことでもあった。究極の愛の形とは何かを考えさせられる。

きみはポラリス/発行年:2011年/著者:三浦しをん

『きみはポラリス』の中の一編「夜にあふれるもの」。「神の子を身籠った」と思い込み、校内の礼拝堂に通い詰める真理子と、それに困惑した夫・芳。そして、芳から「妻の様子がおかしい」と相談を受けた親友のエルザの3人が登場する。物語は、精神を病んだ妻を案じる夫と、それを支える友人の構図に見えるが、その裏にはエルザが長年隠し続けてきた真理子への狂おしいほどの「恋心」が潜んでいたーー。

◆気づきの一文
「まりこぉぉぉ、まりこぉぉぉ」(153頁8行目)

ーーこの一文は、物語の終盤に出てくる。前に「あなたに何ができる。真理子がどんだけ純粋に愛するひとか、なにも知らずに享受するだけだったくせに」とあるように、夫への激しい憎悪と、彼女を理解し得るのは自分だけだという独占欲と狂愛が滲み出ている。

文・写真/山﨑穂花 @honoka_yamasaki
記事制作/newTOKYO

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