現在の日本では、条件付きで戸籍上の性別変更ができる。性別変更の条件は、「二名以上の専門知識を有する医師の診断」と、「五つの条件」を全て満たすこと。その中で最もヘビーな条件なのが“生殖機能を永続的に欠く状態にする”というものだ。つまり性別適合手術を受け、性器を切除しなければならない。
性別違和を持つ人たちのサポート業務を通じて、人生の大きな選択に立ち合い、様々な性別変更のシーンに触れてきた。しかし、性別違和があるからといって、必ずしも全員が性別変更を望み性別変更をするわけではない。性別変更をする、しないを選択する様々な理由とはなんのか見ていこう――。
■ 性別変更をする理由
◇生まれ持った性別と逆の性別が本来の姿であると自認し、自分らしく生きたい
◇生まれ持った性別で他者から扱われることが苦しく、本来の姿で社会生活を送りたい
◇自分の身体、性器が忌々しく感じ、生きているだけで苦痛に感じる
◇好きな人と結婚をしたいという願望がある
■ 性別変更しない理由
◇リスクある手術や、生殖機能を失うことは望んでいない
◇戸籍上の性別を重要視していない
◇持病があり、ホルモン治療や性別適合手術の条件を満たせない
◇周囲に批判的意見があり抑圧されている
◇手術費用が安くはないので、経済的理由で治療ができない
■ 性別変更する人と、しない人の違いは?
トランスジェンダーは生まれ持った生物学的性別に違和感があるが、大きく分類すると「性自認の差」と「生き方の差」の度合いによって、性別を変更するか、しないかを選択する違いが生まれる。
「性自認の差」では、自分が認識しいてる性との違和感や嫌悪感がどこまで強いのか、「生き方の差」では、実生活でどれだけ不便なのかや、周りの人たちの理解度などの環境問題によってといったところだ。
つまり双方の度合いによって、自ら決断して性別変更することが望ましいのだが、外部環境に抑圧されてできないという人も未だに少なくない。そして逆に“自ら進んで性別変更しない人”が近年増加し続けているのも確か。
これは、男女二元論から確実に「新しい生き方」が広がってきた明るい傾向と言える。自分自身と向き合ってトランスジェンダーとしてどう生きるか? 今までは常識だった男女二元論、性別の概念には、もはや意味はなくなってきたのではないだろうか。
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文/井上健斗 Twitter@KENTOINOUE
イラスト/RYU AMBE Instagram@ryuambe
記事協力/性同一性障害トータルサポート/G-pit