Vリーグで7年間、プロのバレーボール選手として活躍してきた滝沢ななえさん。現役を退き、あるテレビ出演をきっかけに、長年秘めていたセクシュアリティをカミングアウトした。現在は、彼女と愛犬と共に暮らし、自分らしさを大切にした家族として幸せな生活を送っている。好きな人が同性だからということは、なんら特別なことでないということ。それを彼女は笑顔で語ってくれた。
そんな滝沢ななえの決意とカミングアウトに至った経緯、そして、前向きな笑顔の秘訣とは?
──人を好きになることができないのかもしれない。男性とでは芽生えなかった感情が女性となら芽生えた実感。
自分が女性を好きかもしれないと思ったのは、ドラマ『ラストフレンズ』で上野樹里さんが演じていたトランスジェンダーの役を見てからでした。いろんな性自認や、女性が女性を好きなるパターンもあるんだということを知りました。
ただ、それまでの私はレズビアンという言葉は知っていたけれど、なんとなく女性は男性とお付き合いするものという考えがあり、高校生の時、男性とお付き合いしていました。友人たちの恋愛の話を聞いていると、みんな嬉しそうにデートした話などで盛り上がっているのですが、私にはそういう感情があまりなかったんです。どうして「大好き」になれないのか…もしかしたら、私は人を好きなることができないんじゃないか。そう思い、不安になることもありました。
そんな私が22歳の頃、とある女性とお付き合いをすることになりました。すると、それまでの恋愛に対する考え方が180度変わったんです。女性とお付き合いすることに違和感はありませんでした。むしろ、性別の対象が違っていただけで、誰かを好きになるということ、愛することができるということ、そういう感情が自分にもあるんだっていうことが認識できたことが、すごく嬉しかったんです。
──それが、私にだからできることだったから。前向きなカミングアウトをたくさんの人に伝えたい!
現役を引退してから、仕事の方向性を決める中で「私にだからできること」について考えていました。勤めていたトレーニングジムの代表には、レズビアンであることをカミングアウトしていたので、だったら同性愛者であることを公表して、同じような立場の人たちに、何か希望とか心の励みや支えになれるかもしれないって、話をしていたんです。
その時ちょうどテレビ出演の話があって、カミングアウトしようと決めたんです。不安はめちゃくちゃありました。誹謗中傷やネガティブな意見とか、レズビアンだということを知ったファンたちはどう思うのかな、悲しむのかなってたくさん考えました。だけど、実際には自分の耳にはそういった反応はなく、逆にすごいポジティブな意見をもらうことが多かったんです。
それまで一緒に戦ってきたチームメンバーや別のチームからは、それぞれ言葉は違うけれど「これからもななえらしく頑張ってね。応援しているから」っていう声が多かったです。ファンからも、「滝沢ななえ」ちゃんのファンなのだから、ななえちゃんのセクシュアリティがどうであれ、応援していますって。
だから、カミングアウトをして一番変わったのは、自分自身がポジティブになれたことでした。同性愛者ということにこだわらず、仕事に対してだったり、家族に対してもより一層、自分らしく生きられているって強く思うようになりました。
──自分らしい家族のかたちは人それぞれ。喧嘩と幸せを噛みしめながら将来を見据えていく。
現在は、私と彼女と、わんちゃんの三人で暮らしています。いろんな家族のあり方があって良いなって思っていて、うちではこのようなスタイルです。
幸せだなって感じたり、喧嘩をしたり、それでも一緒にいたいなって思ったり。そういうのって、異性と付き合っているからだとか、同性と付き合っているからだとか関係ないんですよね。今、お付き合いをしている人とは一人の人間として、大切に思える関係性を築けていると思うんです。この人だから、好きになったんだなって。
それでも、結婚をしたりだとか、子どもを産むとか、そういうのを考えるような年齢になってきますよね。彼女も私も今の日本では籍を入れることができませんし、両方のDNAを持つ子どもを授かることはできません。少し前までは、そういった現実的な問題ですごく悩んでいたりもしました。その問題に対して、お互いに意見が違うことがあったりもするから喧嘩したりもしましたが、今はお互いの意見を擦り合わせて納得のいくところに落ち着いたんですけどね(笑)。
ただ、今は籍を入れなくても幸せに過ごせているから良いけれど、もう少し年を重ねていくとやっぱり籍を入れていたほうが良いことだったり、入っていないことで問題が起きたりすることもありますよね。その時は、また日本の法律や制度がどうなっているかによって、パートナーと一緒に考えて、必要だったら喧嘩してお互いの意見を交換していきたいなって思っています。
──日本のスポーツ界への理解にも繋がってほしい。LGBTs当事者と、そうでない方へのメッセージ。
現役時代、私はカミングアウトをしようと思ったことはありませんでした。信頼できる数人には話してはいましたが、自分自身のセクシュアリティにまだ確信が持てなかったことや、オープンにする怖さと不安が当時あったのは正直ですし、ネガティブな要素として捉えていました。今振り返ってみると、もっと前向きな姿勢でいれたら、当時の仲間や周りの方々も受け入れてくれていたかもしれません。
ただ、日本のスポーツ界に7年間いた実感として、日本にはまだまだそれを前向きに受け入れていこうという動きは少ないと思うこともあります。海外では、現役の選手がセクシュアリティをカミングアウトすることで、ありのままの自分を受け入れてもらってプレイすることができていますよね。ファンや、チームメイトや家族からありのままの自分を応援してもらってプレイに集中することで、それはすごく大きな力になると思うんです。実際、ファンからの声援ってすごく心の支えにもなるし、プレイの励みにもなるんですよ。
だから、日本のスポーツ界にも理解が広まっていくと良いなと思います。
最後に私からメッセージです。
──LGBTs当事者の方へ
時にはセクシュアリティで辛い思いをしてしまうこともあるかもしれないけれど、当事者自身が前向きな気持ちを持っていってほしいと思っています。まだまだLGBTsに対して色々と遅れていると言われることが多い日本だけれど、そのポジティブなエネルギーがきっと日本をより良い方向へと変えていくと思っています。自分は自分のままで良いんだって、そうやって皆で力を合わせて支え合いながら日々過ごしていけたら道は必ず拓くと思っています。
──そうでない方へ
私がカミングアウトした時、全員に理解してもらえるなんて思っていませんでした。受け入れてくれる人もいるし、そうでない人もいるんだって。だけど、知っていてほしい。
私はレズビアンでLGBTsの当事者だけど、あなたと同じ一人の人間として生きているんです。あなたと一緒なんですよ。こういう人もいる、意外と近くにいるんだよって知っていてほしいです。だからもし仮に、あなたが誰かにカミングアウトされた時に、温かく話が聞ける環境を作ってくれていたら嬉しいです。
■ 滝沢ななえ/パーソナルトレーナー
1987年、東京都出身。Vリーグで7年間、プロのバレーボール選手として活躍。現役引退後、テレビ番組で女性と付き合っていることをカミングアウト。FROM THINKプロダクション所属。
■ オフィシャルブログ:ななブロ
■ Twitter@nanae0922
■ パーソナルトレーニングサロン
取材・撮影/新井雄大
編集/村上ひろし
記事制作/newTOKYO
※この記事は、「自分らしく生きるプロジェクト」の一環によって制作されました。「自分らしく生きるプロジェクト」は、テレビでの番組放送やYouTubeでのライブ配信、インタビュー記事などを通じてLGBTへの理解を深め、すべての人が当たり前に自然体で生きていけるような社会創生に向けた活動を行っております。
https://jibun-rashiku.jp/