【トランスジェンダー夫婦の“妊活”】「子どもは、俺しか産めないので」。FTM逸斗さん・MTFちかさんご夫婦が子どもを授かり、叶えたい夢とは?

FTMとMTFの夫婦のちかさんと逸斗さん

銀座のクラブ『Ginza大穴(ダイアナ)』でホステスとして働くMTFのちかさんと、旦那であるFTMの逸斗さんが出会ったのはおよそ4年前、岐阜県のとあるミックスバーだった。2018年から東京で始めた同居生活は恋愛関係・肉体関係にならないことが前提だったが、その4ヶ月後にはお付き合いがスタート、2019年6月には結婚届を提出し晴れて夫婦となった。そして今年の8月からは、以前から考えていたという“妊活”の準備を始めている。

戸籍の性別変更はしておらず生殖機能をなくしていなかったため、自然妊娠・出産が可能ではあるが、その決断までには時間を要したそうだ。今回はそんな夫婦が描く“家族”のカタチについて伺った。

トランスジェンダー女性のチカさん

──「最初は何の気無しに同居を始めたけど、一緒に住んでいるとこうなるわよねって感じ(笑)」結婚して夫婦となった二人、今までの4年間。

ちかさん:私の生い立ちから話すと父親があまり家にいないような家庭ということもあって、気付けば口調や仕草がいつもそばにいた母親と瓜二つ、それに幼少期から異性というよりは同じ男の子に目を惹かれることが多かったと思います。友達は女の子ばかりで、中学校に入学すると多少、異質なものを見る様な眼差しを向けられることはありましたが、それ以外は普通に生活できていましたね。

今、「セクシュアリティは?」と問われたらMTFと答えるけれど、完全に女性になりたいわけではないの。女性ホルモンは定期的に注射しているものの、胸にシリコンを入れたいとか性転換をしたいとかは全く思わない。結局、子どもを産める様な身体になるわけではないでしょう?

逸斗さん:自分も物心ついた時から男という自覚がありました。母が気に入った女の子の洋服を鏡の前で当てられても「違う!」とはっきりと意思表示をしていたそうで。友達は男の子ばかりで口調や言葉遣いなんかもヤンチャで、今とあまり変わらずって感じでしたよ。男性ホルモンの注射を打ち始めたのは22歳ぐらいからですね。

ちかさん:彼と出会ったのは、4年前。その頃は『ひげガール』のキャストとして働いていたんだけど…男関係で色々あって岐阜に行くことになったの(笑)。お昼間の仕事に加えて、お小遣い稼ぎ程度にミックスバーで働きはじめて「“オナベ”さんもいればいいね~」みたいな話をオーナーと話していて。友達の伝手で知り合った彼に声をかけたら、わざわざ福岡から来たのよ。まぁ、それから程なくし、オーナーが色々やばい人だって気付き始め、夜逃げする様に一人で東京へ戻ったんだけど。本当、ふざけてるわよね(笑)。

逸斗さん:本当、びっくりしたというか「ふざけんな!」って思いましたよね。ちょっかいをかけるだけかけて、何も言わずに東京へ戻るなんて。ただ、俺もそのオーナーと色々あって、居場所がなくなって…。唯一繋がっていた彼女を頼りに上京、2018年9月末に二人で住み始めました。

ちかさん:語弊があるかもしれないけれど、彼は本当に「男」って感じなの。中途半端というか、気取ってるわけじゃなくて、根っからの男。だから悪い風には思ってなくて、困っているなら手を差し伸べてもいいなって思えた。最初は、互いに恋愛感情も肉体関係も持たないことを条件とした同居だったけれど…一緒にいるとね、こうなるわよね(笑)。

逸斗さん:付き合おうと言ったのも、プロポーズしたのも自分から。お茶目なとこというか、甘えん坊なところもあって、一緒に住んでいて居心地がいいし、変わらずいれたらいいなって思って結婚しました。

トランスジェンダー 同士の夫婦のチカさんと逸斗さん

──産むこと・産んでもらうことに未だに心の整理がつかないと話す二人。それでも子どものいる未来を描き、選択したちかさんと逸斗さんの夢。

逸斗さん:子どもが欲しいという気持ちは、俺の方が強いですね。つい先日、FTMの友人夫妻の間に赤ちゃんが生まれたこともあって、子どもの未来について考える時間が増えました。年齢的にも身体的にも産めるタイミングは今しかないのかなって。

ただ「子どもを産む」ということに対しては正直、全く抵抗が無いというわけではないすよ。可能であれば出産・妊娠をするというのは男である自分がするのは違うなって思いますし、代理出産をしてくれるという友人もいたけれど今の日本じゃ難しい。怖いけれど、俺が産むしか方法はないんですよね。

ちかさん:子どもは好きよ。ただ、産むのは私じゃなくて、あくまで彼。軽々しく欲しいなんて言えないわよ。あとは、親になるのが怖かったという気持ちが同じくらい強かったというのがあるのかも。言ってしまえば、決して生い立ちがいい二人ではないし、両親とはほぼ絶縁状態。こんな自分達が“ちゃんとした親”になれるのか、辛い経験をさせてしまわないか不安なの。でも彼と話した結果の選択だから、以前よりは前向きに考えられてはいるかな。

今はお互いホルモン注射を2ヶ月前からストップして、本来の性ホルモンが分泌されるような身体にしています。私の場合は自慰行為を2日に1回やらないといけないから大変(笑)! あくまで、自然妊娠を望んでいるから不妊治療をしてまで子どもを授かろうとは考えてない。ただ、周りの先輩方からはとても期待されてしまっていてね。というのも、皆さん下の方を切除してしまった人がほとんどで、それを本当に後悔している人が多いのよ。自分たちが産めない分、私たちに気持ちが乗るみたいで応援してくれるの。 

LGBTカップルの後ろ姿

逸斗さん:もし子どもが生まれたら…とりあえず乳房切除手術はしたいです。戸籍は子どもが成人するまでの20年間変更することはできないので、そのままですが…20年経ったとして、50歳過ぎだし、おじさんとおばさんの境目が曖昧な年齢になっていると思うので、わざわざ性別を変えるとかは考えてないですね(笑)。

ちかさん:それも社会が勝手に決めたことだしね。書面上の形にはこだわりはないです。私は彼の様に、自分の名前を変えるぐらいかな。子どもには私たちの関係性についてははっきりと伝えようと思っています。別に隠す様なことでもないし。もしかしたら、自分たちの夫婦の形が原因となって、色々なトラブルに巻き込まれるかもしれないけど、そんなことを気にしない、自分を強く持った子に育って欲しいし、そうなるための最低限のサポートはしていきたいかなと思っています。

あ、後はちょっとした夢があって。温泉が大好きだから、3人で旅館なんかに泊まって露天風呂に入りたいなぁなんてことも思ってる。今の時代、なかなか私たちの様なセクシュアリティの人たちが公共の更衣室を使用したり、温泉に入ったりするのって難しいじゃない? 少しでも、その夢の実現が近づく様に、私たちの様な夫婦・家族のカタチがあるんだよということをSNSやメディアを通して多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。

■ プロフィール
逸斗さん/31歳/福岡県出身/FTM
ちかさん/42歳/東京都出身/MTF

取材・インタビュー/芳賀たかし 
撮影/新井雄大 
記事制作/newTOKYO

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