吃音のあるアイスホッケーが苦手な少年、フィギュアスケートを学ぶ少女、そして夢を諦め恋人の地元でフィギュアスケートを教えるコーチの変わりゆく関係性を描いた映画『ぼくのお日さま』が公開中。冬の静けさと陽射しの温かさのコントラストが美しい田舎町を舞台に、どこか生きづらさを感じている3人がフィギュアスケートという共通言語で、ゆっくりとこころを通わせていく作品となっている。
監督は2018年に映画『僕はイエス様が嫌い』で、サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞した奥山大史監督だ。
ーー真っ白な雪景色に美しい陽射しが降り注ぐ田舎町を舞台に、こころを通わせていく3人
吃音のある小学6年生のタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくらに心惹かれる。そしてさくらは、プロの夢を諦め、恋人のいる街でフィギュアスケートを教える荒川に特別な目を向ける。
荒川は何度も練習で失敗するタクヤの様子を見つけ、練習につきあうことに。そして、タクヤの恋を後押しするように、タクヤとさくらにペアでのアイスダンスを提案するーー。
舞台は、雪が積もる田舎町。どこまでも白に染められた広大な大地に陽が降り注ぐカットは、本作を象徴する心象風景とも言える。
ーーそれぞれが寄せる想い。3人の淡くて切ない小さな恋たちの行方は
本作はそれぞれ生きづらさや苦悩がある中で、他者を想う気持ちによって成長していく様子を、丁寧に描いているのが魅力だ。タクヤは吃音を持っており、国語の授業で行われる音読は気が乗らない。サクラは、熱心にフィギュアスケートを学ぶ優等生でありながらも、思春期の揺らぎを抱えている。荒川は、同性の恋人・五十嵐と付き合っており、セクシュアルマイノリティであるがゆえの問題に直面する。
奥山監督は、公式インタビューで「現代の映画やドラマに登場する同性カップルの描写について、どこか異性愛者の視点で記号化されているように感じる」と話した。しかし、直接的な描写はないとはいえ、地方ならではのLGBTQ+に対する否定的な眼差しなど、現代に存在する問題にも触れている。
ーー誰もが人には言えない“何か”があるが、それは環境や状況によってはすぐに解決できないこともある。しかし、そんな現実を受け止めながらも、ゆっくりと前に進んでいく姿は逞しく、美しいと改めて思わせてくれる作品だ。
◆ぼくのお日さま 9/6(金)〜9/8(日)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて3日間限定先行公開、9/13(金)より全国公開中
https://bokunoohisama.com/
STORY/吃音をもつホッケー少年・タクヤ(越山敬達)は、「月の光」に合わせフィギュアスケートを練習する少女・さくら(中西希亜良)の姿に、心を奪われてしまう。ある日、さくらのコーチ荒川(池松壮亮)は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て何度も転ぶタクヤを見つける。タクヤの恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習をつきあうことに。しばらくして荒川の提案から、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習はじめることに……。
配給:東京テアトル|出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也 ほか|主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」|監督・撮影・脚本・編集:奥山大史|© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
文/Honoka Yamasaki
記事制作/newTOKYO