お別れをされる側とする側の気持ちを紐解く、ハートフルコメディ「ひみつのなっちゃん。」でほっかほか。

映画ライターのよしひろまさみちの映画レビュー

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映画をご紹介するコラム

「まくのうちぃシネマ」第40回目

ゲイの老後、というか、去り際というか、それに伴うお見送りというか。以前、このコーナーで『スワンソング』を紹介したときも書きましたが、この手のことって、これから絶対に社会問題になるはずなのよ。そして、超高齢化社会のフロントランナーである日本が、映画などで多様に描くべきだと思うのよね。

というところに、まさかの『プリシラ』を彷彿とさせるドラァグクイーンのロードムービー『ひみつのなっちゃん。』が登場。肉親にはセクシュアリティを秘密のまま急死してしまった親友を見送るための珍道中を描いたハートフルコメディです。

よしひろまさみちのひみつのなっちゃん。の映画レビュー

先に言っとくと、当事者が観るとぶっちゃけ、ツッコミどころはたくさんある。あるんだけど、怒る気にはならず、むしろホッコリ。なぜならなんせ眼差しがやさしい!

なんだろ……フランキー堺とかが全盛だった60年代くらいの、憎めない善人キャラで彩られた松竹ホーム喜劇を観ているかのような感覚。このバランス感覚は見事よ。しかも、なっちゃんのお見送りに際して、3人のドラァグクイーンがそれぞれに悩みや苦しみを吐露していくくだりなんて、「あー、あるある……」って共感しちゃうもの。しかも3人が世代バラバラなので、各世代の代弁をしてくれてる感じ。

よしひろまさみちのひみつのなっちゃん。の映画レビュー

なによりあたしに響いたのは、お別れをされる側とする側の気持ちね。前者はあたしにはまだちょっと先の話かもしれないけど、でもなっちゃんだって予告なく急に死んじゃったんだから、いつ訪れるかも分からないし。後者はもう相当な経験を積んできただけに「これからもこういうこと起きるのよね……」とため息。それもこれも無理に自分を閉じ込めるのがいかんのよ。それを強いる社会がいかんのよ、と改めて感じてしまうのよね。

それがラストの郡上おどりに結びつくのはなぜか。それは見れば分かります。もっというとプログラムを読んで頂くと分かりますわよ(あたし書いてます←宣伝)。

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■ひみつのなっちゃん。
ストーリー/二丁目のめし処を経営していたなっちゃんが急死。彼の親友バージン、モリリン、ズブ子の3人は、なっちゃんが実家には秘密にしていたゲイの痕跡を隠滅するために画策するが、そこになっちゃんの母が現れ………。

監督:田中和次朗
出演:滝藤賢一、渡部秀、前野朋哉、本田力、本田博太郎、カンニング竹山、松原智恵子ほか
配給:ラビットハウス、丸壱動画
公開:2023年1月6日よりミッドランドスクエアシネマほか愛知・岐阜先行公開、1月13日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

文/よしひろまさみち Twitter@hannysroom
イラスト/野原くろ Twitter@nohara96