私とアナタのための、エンパワ本 Vol.7 オレンジだけが果物じゃない/美しい夏/いちばんここに似合う人

主にセクシュアリティ・ジェンダーの分野で執筆をしながら、ダンサーとしても活動するレズビアン当事者の山﨑穂花さん。「わたしとアナタのための、エンパワ本」では毎月、彼女の本棚の中から、自信や安心、ありのままの尊さを教えてくれた本(=エンパワ本)を、“気付きの一文”を添えて3冊紹介。

第7回は、レズビアン的要素を描写し、「自分だけの居場所」を見つけ出そうとする、海外の小説3冊に光をあてる。

そこに綴られているのは、遠い国の見知らぬ時代の物語。文化や宗教観、言葉は違えど、本の中に登場する彼女たちのように、私たちは自身のセクシュアリティが故の誰にも言えない孤独や、居場所のなさなど、共感できることもあるかもしれない。

今回選んだ3冊の、ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』、パヴェーゼ『美しい夏』、ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』は、女性を愛する女性として、周囲との違和感の中で自分だけの居場所を模索する女性たちの記録だ。

オレンジだけが果物じゃない(白水ブックス)/発行年:2011年/著者:ジャネット・ウィンターソン、訳:岸本佐知子

レズビアン文学の名作であり、著者の自伝的小説。厳格なキリスト教の家庭で、将来の伝道師として育てられた少女が、同性を愛したことで信仰や家族と激しく対立し、葛藤の末に自らの人生を切り拓く姿を描いている。印象的なタイトルは、「提示された一つの価値観(オレンジ)だけが正解ではない」という解放のメッセージ。宗教的な抑圧という重い主題を扱いながらも、寓話やユーモアを交えた筆致で優しく寄り添っている。

◆気づきの一文 
「人は面倒になった過去を、いともあっさりと葬り去る」(157頁3行目)

ーーこの言葉は、主人公が女性を愛したという事実を、教会や家族がなかったことにしようとしたり、若気の至りや間違いとして処理しようとしたりすることへの批判を含んでいる。本作は、誰かの物差しで自分の真実を消させないための、抵抗の書でもあるように感じる。

美しい夏(岩波文庫)/発行年:2006年/著者:パヴェーゼ、訳:川島英昭

16歳の少女ジーニアが過ごした、痛いほどに眩しく残酷なイタリアの夏。お針子として働く彼女が、年上の奔放なモデル・アメリアに惹かれ、未知の扉を開いていく物語。アメリアという「強く自立した女性」への憧れは、やがて周囲の友人たちが語る「普通の幸せ」への違和感へと形を変えていくことに。自分がマジョリティの歩む道から外れていく予感。それは孤独で不安なことだけれど、同時に自分自身の輪郭が鮮明になる瞬間でもある。若さゆえの過ちや切なさを抱きしめながら、「私は、私のままで大人になる」という覚悟。背伸びをして傷ついた経験さえも、自分を形作る大切な季節だったのだと、静かに肯定してくれる一冊だ。

◆気づきの一文 
「あのころはいつもお祭りだった」(5頁1行目)

ーー物語の冒頭を飾るこの一文は、16歳のジーニアが過ごした、鮮やかな夏を象徴している。日常から一歩踏み出し、年上の女性アメリアと出会ったことで世界は一変したのだ。未知の自分に触れる高揚感は、あとに知る残酷さも含めて、彼女が「自分の人生」を歩み始めた祭りの記録だといえる。

いちばんここに似合う人(Shinchosha CREST BOOKS)/発行年:2010年/著者:ミランダ・ジュライ、訳:岸本佐知子

映画『さよなら、私のロンリー』(2020年)などでクィアなテーマや関係性を独自の視点で描いているミランダ・ジュライの短編集。本作で収録されている「何も必要としない何か」では、2人の若い女性の、友情とも恋とも名付けられない、しかしあまりに濃密で切実な関係を描いている。主人公の「わたし」はのぞき部屋のダンサーとして働き、ガラス越しにしか他者とつながれない孤独に沈む一方で、親友のピップは「まともな」世界へ適応し、2人の間には決定的な溝が生まれることにーー。

◆気づきの一文 
「もし十二分以内に誰も来なかったら、わたしは”わたし”と叫ぶ。」(127頁14行目)

ーー主人公がのぞき部屋のブースの中で一人、客を待っている孤独な時間に発せられる。ピップへの深い愛着の中にいた彼女が、そこから放り出され、のぞき部屋という男性中心的な欲望の場に置かれた時、自ら「わたし」と叫ぶことで、透明になりそうな自分を取り戻そうとしているようにも捉えられる一文だ。

文・写真/山﨑穂花 @honoka_yamasaki
記事制作/newTOKYO

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