ハイヒールを履いた靴職人。性別を定義しない多様な社会を、3Dスキャン技術で後押しするオーダーメイドパンプス「AYAME」

ブリアナも履いたオーダーメイドパンプスのAYAMEの職人

世界初、3Dスキャン技術を用いてオーダーメイドパンプスの製作・サブスクリプション提供をする『AYAME』。IT技術を駆使して一人ひとりに寄り添ったものづくりをしたい。社長・諏訪部梓さんの真っ直ぐな気持ちは、靴底がすり減ったパンプスを見れば、すぐに伝わってくる。

勤務中、社長と靴職人が自らパンプスを履き、その中で感じたことやアイデアを技術革新へと繋げているとのことで、そのままコンビニへ行くこともあるそう。

女性、男性関係なくパンプスのオーダーメイドを受け付けている『AYAME』は、サービスの先にどんな未来を見据えているのだろうかーー。

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3D技術のオーダーメイドパンプスのAYAME

画像/(左)靴職人・山本健太さん、(右)代表取締役社長・諏訪部梓さん

自分が履いてみないと分からないことがたくさんある。パンプスを履いて勤務する理由とは?

ーーいつ頃からパンプスを履いてお仕事をしているのでしょうか?

サービスを開始した2020年2月からです。コロナ禍でのスタートだったため、客足は数えるほどしかなく…ただ、時間はたくさんあったので「暇だし自分のパンプスを作ってみよう」とライトな気持ちがきっかけでした。それに、私がこれまでに培ってきたIT技術と靴職人の技が噛み合い、適切なサービスを提供できているのか、自分自身で確かめられる良い機会だなとも思ったんです。

実際、製作した7cmのハイヒールパンプスに足を通してみると、身長と視界も高くなってテンションも上がるのですが、予想以上に歩くのが大変で。階段では爪先にグッと力を入れないといけませんし、凹凸が粗いコンクリートの道はグラグラして不安定。スニーカーを履いた生活では感じることができない気づきがたくさんありました。そういった、気づきがより良いものづくりに繋がると体感して以来、勤務中はパンプスを履くようになりました。

オーダーメイドパンプスのAYAMEの諏訪部社長

ーー諏訪部さんたちがパンプスを履いているということは…男性でも利用できるのでしょうか? 

はい、どなたでもご利用いただけます。つい先日、初めて男性の方が足を運んで下さったのですが、その方とパートナーの方が「少し落ち着いた色味が良いんじゃない?」「せっかくだから、もう少し遊び心を取り入れたい」といった楽しげな話し合いの末に、オーダーいただいたパンプスを納品したばかりです。

一般市場では、売れるサイズしか店頭に並んでいない事がほとんどで、大きいサイズなどは輸入する以外、納得いくものが手に入りにくいのが現状。そういった中で『AYAME』を通して、自分だけの靴を必要としている人のお手伝いが出来ていたと思うと、嬉しい気持ちになります。

オーダーメイドパンプスのAYAMEのハイヒール

誰がどんな靴を履いても、不自然ではない社会へ。社長・諏訪部さんが考える技術革新の意義

ーー誰でも利用できるサービスでありながら、あえてLGBT向けのキャンペーンをスタートさせた理由はなんだったのでしょうか?

一番は届けたい人に届くように、そんな気持ちからです。「パンプス」と言うと、まだまだ女性のためのものという認識があると思っていて、その認識の範囲内で運営している会社ではないということ、そしてどなたでもお越しいただけるよう間口を広くしてお待ちしていることを伝えたくてキャンペーンをスタートしました。

それは、姉弟ブランドの紳士靴オーダメイドサービス『菖蒲』も同じことが言えて、こちらでは女性のお客様からのオーダーも承っています。性別、セクシュアリティ、国籍など関係なく、一人ひとりの足に向き合っていく気持ちはこれからも変わることはありません。

ーー最後に、『AYAME』を通して社会へ伝えたいこと、取り組んでいきたいことはありますか? 

私の親世代が働き盛りの頃は、「男性は外で働いて、女性は家で家事をする」と言うことが当たり前とされていて、性別によって職業が決まっていた雰囲気がありました。それから30年経ち、親世代と私たちの世代の働き方や生き方に変化を与えた起因がなんなのかを考えると、技術革新がとても大きく影響するのではないかと思っています。

と言うのも6年前、子どもが産まれたタイミングで半年間の育児休暇をしたのですが、料理が苦手な私が子どもの食事に困らなかったのは、乳幼児用の冷凍食品・レトルト食品の技術の発展があったからこそで従来、母親の役割とされてきたことができたわけです。その時、技術が日常の中にある性差もなくしていくことができるのだなと感じたんです。

オーダーメイドパンプスのAYAMEの諏訪部社長と職人

 何となく女性のもの、男性のものと何となく定義づけされてきたものを、男女問わず提供することが可能な『AYAME』のサービスと技術を通して、お客様の人生が少しでもオリジナリティあるものとなるよう、とっておきの一足をお渡しすることが私たちが大切にしていきたいことです。

いつ、どこで履くのかはお客様の自由ですが、街中で誰がどのような靴を履いていても不自然ではない、多様性を認める社会がくることを願っています。

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■ オーダーメイドパンプス/AYAME
長年培ってきた3Dスキャナ技術と靴職人の腕で、性別を限定しないオーダーメイドパンプス製作とサブリスクション提供を行う。Co2排出しないカーボンニュートラルな木型や食肉や害獣の皮を使用することで環境にも配慮した、持続可能なものづくりにも注目が集まっている。
https://www.hana-ayame.info

取材・インタビュー/芳賀たかし
写真/新井雄大