超ヒトコワ映画で落ちる穴のフカミ。「TAR/ター」が伝えるジェンダー問題と権威主義の不協和音。

映画ライターのよしひろまさみちの映画レビュー

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映画をご紹介するコラム

「まくのうちぃシネマ」第45回目

モヤモヤさせますよ〜。なんせ結末はハッピーかバッドか、あなた次第! それも純然たるビアン主人公映画、『TAR/ター』でございます。

問題の結末についてはネタバレになるので、皆さん観てからのお楽しみ、ってことにして(責任転嫁)、LGBTQ+の皆さんにとってどこを観てもらいたいか、ってことを紹介しますわね。

よしひろまさみちの「TAR/ター」の映画レビュー

あ、今回もあらすじはググって。
アカデミー賞6部門ノミネートの傑作なので、オチの手前まで腐るほどインターネットの海に転がっております。いろいろ読んで深掘りしようと思うと沼にハマるのでご注意を。いろんな伏線やらオマージュやら込められているけど、オチに関しては監督自身がいってるとおり、正解はありませんので。

ではポイントです。主人公のリディア・ターがレズビアンで、世界三大オーケストラのひとつ、ベルリン・フィルで初めての女性首席指揮者。おまけに同じオケのコンミスさんがパートナーで娘にも恵まれてプライベートも充実している天才アーティストというのが、一番の見どころね。

よしひろまさみちの「TAR/ター」の映画レビュー

この設定ゆえに、リディアさんの人生、おかしくなっちゃうの。いや、女性で世界が注目する最高のアーティストって最高じゃん、って思うのよ。でも、それって裏返すと、クラシック音楽界も政治や巨大企業などと同じで男性優位の社会ってこと。きました、男特権! だからこそ、リディアがその地位を維持するためにどれだけのプレッシャーを抱えていて、その地位にたどりつくまでにどんだけの人を傷つけたか、想像に易いわけです。

どんな人でも、それこそリディアみたいにすべてが完璧な人でも、権威を味わうと落ちる穴があるってことなのよ。超ヒトコワ映画よ〜。

TAR/ター
ストーリー/世界最高峰のオーケストラの一つドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。圧倒的な地位を手にした彼女だが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいく。そんな時、かつてターが指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは、追いつめられていく……。

監督:トッド・フィールド
出演:ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、ノエミ・メルラン、マーク・ストロング ほか
配給:ギャガ
公開:現在、TOHOシネマズ 新宿ほか全国公開中

文/よしひろまさみち Twitter@hannysroom
イラスト/野原くろ Twitter@nohara96