映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映像作品をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第65回目
あけました。おめでとうございます。今年もいい映画を紹介していきますよ。なんせ映画賞レースシーズンの作品、セクシュアル・マイノリティが観るべき映画がばんばか公開されますので! ということで、2025年一発目は『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』。20日に2期目の大統領就任するドナルド・トランプの若かりし頃のお話。
これ、見事な副題。野心だけはモリモリだけど何者でもなかったトランプがロイ・コーンという人をメンターにしたことによって、あのキャラが作られたって話。ロイ・コーンは舞台&映画『エンジェルス・イン・アメリカ』や映画『ロイ・コーンの真実』にもなった、冷戦期に赤狩りの急先鋒に立った検察官。弁護士に転身してからの彼がトランプのメンターになったんだけど、これがめちゃひどい。彼のモットーは「攻撃」「非を絶対に認めるな」「勝利を主張し続けろ」。ね、まるで今のトランプ。
なんでこの連載でこれを紹介するかっていうと、そのロイ・コーンって人は隠れゲイだったのですよ。本人は絶対認めなかったし、死ぬまで肝臓がんだと言い張っていたんだけど、エイズによる合併症で他界(劇中にもそのシーン出てきます)。そんな彼がどういうパーソナリティだったかを観るのがこの作品のキモでございます。
『エンジェルス〜』などでも描かれているとおり、彼はセクシュアル・マイノリティの人権運動に真っ向から反対&妨害してきた当事者なんだけど、令和ジャパンを謳歌する人は「なんで?」って思うじゃない。アイデンティティに関わる秘密を持つ人が拠り所にするのは権力。で、当時の権力者は絶対的に「男」。だとしたら、同性愛者であることを周りに悟られてはならんし、なんなら「俺はあいつらを嫌ってんすよ!」ってスタンスを示さないと生きていけないわけです(なので、敢えての乱交をするシーンもあります)。
それゆえに、ゲイなのにゲイを嫌って攻撃するだけでなく、権力者の悪いところを煮詰めたモットーを生み出したわけです。ジコチューなモンスターとしかいいようのないことだけど、自分を隠そうとするってすごく不健全で迷惑なこと、ってことをお分かりいただけると思いますわよ。
◆『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』 1月17日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
https://www.trump-movie.jp/
監督:アリ・アッバシ/出演:セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マリア・バカローヴァ、マーティン・ドノヴァン ほか/配給:キノフィルム
文/よしひろまさみち X@hannysroom
イラスト/野原くろ X@nohara96
記事制作/newTOKYO