【5/9(金)公開】美少年に沼ったイケオジ、大暴走。お耽美さゼロ、レビュー真っ二つの映画「クィア/QUEER」

LGBTQ映画を扱うゲイの映画ライターによるコラム連載

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映像作品をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第68回目

3月までの映画賞シーズンで話題になった『クィア/QUEER』。もーこのタイトルで『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督&ダニエル・クレイグ主演で、っていうだけで期待感アガるじゃないすか。しかもですな、ダニエル・クレイグ演じるリーは、美青年を一目惚れして……っていう、むちゃおっさんずラブ風味。ですがな! これ、けっこうな難易度の高さですのよ。

いわゆるおっさんずラブ的なわかりやすさや、『君の名前〜』的なお耽美さはゼロ。なんせ原作は、ビートニクの巨匠ウィリアム・S・バロウズ。日本版初版時のタイトルは『おかま』!(この映画のおかげで原題の『クィア』に改題されました)一言でいうと難解。ぶっちゃけ映像化できんのか、ってレベル。

だって、1950年代のメキシコで酒とドラッグに溺れた中年駐在員が隠れゲイってだけでも、令和の今なら厄介オジ。それが若い美青年にイチコロで、会えば会うほど沼。叶わぬ恋の罪悪感から、テレパシーできるようになる幻覚剤を求めてアマゾンに行く……って話よ。

これをどう実写で……と思ったら、原作の比喩表現とかまんま映像に。要はイケオジ大暴走なんだけど、おそらく「いったい何を見せられてるんだ……」という人と、「これはあたしの気持ちの代弁!」という人で真っ二つになりましょう。

でもね、よくわからんと思っても考えていただきたいのは、セクシュアリティをオープンにできない人のこと。この物語は50年代が舞台だから、ゲイだってことをオープンにしたら命の危険すらあるのね。でも、それくらいの危機を感じてオープンにできない人がまだまだたくさんいる令和の世界。自分の周りだけ見て「差別されたことないから〜」じゃないのよ。

自分らしく生きることがどれだけ穏やかな人生につながるか、秘密を抱えて生きることがどれだけ不健康か、ってことを考えてもらいたいのね。そうすると、後半部の「ヲエ〜!」ってシーンもなんとなく意味分かるはずよ(見てからのお楽しみ)。

◆『クィア/QUEER』 5月9日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー
監督:ルカ・グァダニーノ/出演:ダニエル・クレイグ、ドリュー・スターキー、レスリー・マンヴィル、ジェイソン・シュワルツマン ほか/配給:ギャガ

文/よしひろまさみち X@hannysroom
イラスト/野原くろ X@nohara96

記事制作/newTOKYO

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