“炎上作品”で終わらせるのはもったいない、クィアミュージカル映画「エミリア・ペレス」。麻薬王から一転、女性となったエミリアの運命

LGBTQ映画を扱うゲイの映画ライターによるコラム連載

映画ライターのよしひろまさみちが、
今だからこそ観て欲しい映像作品をご紹介するコラム
「まくのうちぃシネマ」第67回目

前回しれっとタイトルだけ出したド直球クィア映画『エミリア・ペレス』。アカデミー賞で最多13ノミネートで助演女優賞と歌曲賞の2部門ゲットしたミュージカル。じつはかなりデリケートなことで炎上しまくった作品で、紹介するかどうかも迷ったんだけど……やっぱり娯楽としては面白いし、なんといってもトランスウーマンの俳優が初めて大舞台に躍り出た作品ですから。

麻薬カルテルの大ボスが悩めるトランスジェンダーで、若い弁護士に全てを打ち明けて、自分らしいブランニュー人生をゲット。ところが、エミリア・ペレスとしての再出発をした彼女は、再度弁護士に接触。それは子どもたちのそばにいたい、という願いだった……。と、主人公目線で書くとすっごく傲慢な話。要はすべてを手にしたと思っていても、人間の欲って罪深いのよね……っていうのがこの作品の本題なんすわ。

それがトランスジェンダーである必要あるの? ということを問題にする方もいらっしゃるし、そもそもラテンアメリカにいる麻薬戦争の被害者に対する配慮も足りないし。この設定を娯楽にするには早かった、と思うわけです。

でもな、悔しいことにクィアミュージカル映画としては面白いんですよ。不可抗力によって生まれた、この作品が内包するたくさんの問題についても、深く考えるのにはいいきっかけ。観ないで批判だけするのは、外野からやじを飛ばしてるだけ。どこがどうなればこの作品が傑作となるのか、観た人同士で議論してほしいの。

◆『エミリア・ペレス』
監督:ジャック・オディアール/出演:カルラ・ソフィア・ガスコン、ゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメス ほか/制作:サンローラン プロダクション byアンソニー・ヴァカレロ/配給:ギャガ/公開:3月28日より、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか全国ロードショー

文/よしひろまさみち X@hannysroom
イラスト/野原くろ X@nohara96

記事制作/newTOKYO

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